2011 Fiscal Year Research-status Report
共生社会の構築に資する持続可能性教育としての日本語教師養成プログラムの開発
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23720260
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
鈴木 寿子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, リサーチフェロー (00598071)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日本語教育 / 教師養成 / 協働 / 内省 / 対話 / 言語生態学 / 持続可能性日本語教育 / 同行者としての教師 |
Research Abstract |
本研究の目的は「持続可能性教育としての日本語教師養成プログラム」を示し、プログラム参加者の学びを明らかにすることである。本年度はお茶の水女子大学において2011年4月から7月まで、日本語教育専攻の参加者15名による実践を行った。本実践の特色は、言語生態学を理論的背景とする「持続可能性教育としての日本語教育」の一形態として、グローバル化社会における日本語教師の役割や専門性を問い直すための教師養成プログラムを展開したことである。これは日本語教師養成において持続可能性教育をベースとした初めての試みである。具体的には、経済連携協定や留学生30万人計画といった国家規模の施策が日本語教育に及ぼす影響を考える内容をシラバスに組み込んだ。教室活動は、1)事前課題として、あるテーマについて新聞記事などから調べ自分の考えを書く、2)事前課題に基づいたグループワークと全体共有、3)気づいたことや考えたことをふり返る、という3つのパートからなる。 参加者の内省記録やグループワークの音声記録分析の結果、参加者は国の政策や世界規模の事象といった大きなテーマを、教育経験や生活経験などを参照して仲間と対話することによって、日本語教師という職に内包された社会的意義に開眼していったことがわかった。例として、ある参加者はこれまで留学を、極めて個人的なキャリアアップの一行動と捉えていたが、頭脳流出やグローバル経済下の競争激化という観点で仲間と議論したことにより、日本語教育が多言語人材への教育であること、世界規模の経済活動と関係が深いことが自覚されたというふり返りを得ていた。 本研究では「持続可能背教育としての日本語教育」を教師教育で展開することによって、人間活動と教師活動の一体化が推進されることを明らかにし、「持続可能性教育としての日本語教師養成プログラム」の可能性を打ち出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度は半期の実践を行うためのシラバスおよび教材案作成を行うことと、それに基づいて教室実践を行うことを予定していた。これらは予定通りに進行した。また、次年度の課題としていた、参加者に対するアンケート分析も行った点で、本年度の当初の計画案にあった課題はすべて終わらせることができた。データ分析が滞りなく進展した結果、研究発表2件、査読論文(採用決定)1本の業績を上げることができ、計画は当初の予定以上に進展していたということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.本年度実施した実践に関する補足的調査・研究 本年度の実践参加者へのインタビュー調査を、次年度の夏頃に行う予定である。これは、実践終了約1年後にあたる時期であり、当該実践に参加したことの意義づけが、1年経ち、どのように捉え返されているかを確かめるものである。 次に、本年度行ったシラバスを再吟味する。次年度・その次の年度の再実践に備え、使用可能な教材やその他資料や改善点を吟味し、使用可能な形で整理する。2.次年度の実践に関する方策 本年度の参加者のなかから希望者を募り、本年度の実践と連続した継続的プログラムの立ち上げ計画が進行中である。本年度参加者以外に、新規参加希望者も加えた合同的な実践となる。この企画においては、言語生態学や持続可能性日本語教育に関する基礎的な勉強会から行うほか、後半には参加者自らも実践者となることによって主体的に授業づくりに参画する教室運営を企画する予定である。 また、教師養成に関する基礎調査として、日本で日本語教育学や周辺領域を専攻する大学院留学生に対するインタビュー調査を行う。本調査は、持続可能性日本語教育に基づく教師養成論を展開するうえで、日本語教師の卵である大学院留学生が日本でどのような生活を送っており、どのような人生設計を立てているのかにアプローチする。これによって、日本語教師がその人間活動と教育活動を一致させ、実現可能で持続可能な生き方を構築するための基礎的知見を提供するものである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.データ収集・分析のための経費 実践で収集するデータのほか、勉強会・研究会におけるやりとりをデータを文字化するための研究補助者に対する謝金として使用予定である。また実践の教室で使うためのPC等の機材が必要である。2.図書購入のための経費 持続可能性日本語教育では、アクロス・カリキュラムでシラバスを構築するため、領域横断的な資料を教材とする。そのため、教育学、経済学、政治学、社会学など多岐にわたる学問領域から、データブック、論集、資料集、DVDなどの資料を検討する必要がある。こうした図書購入のための経費が必要である。3.成果発表のための旅費 日本語教師の成長論の分野に貢献する上で、成果となるプログラムを広く公表し、研究コミュニティにおける意見交換を行うための発表にかかる旅費が必要となる。
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Research Products
(3 results)