2012 Fiscal Year Research-status Report
意見対立場面における日本人英語学習者の調整方略の研究
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23720284
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
山本 綾 豊橋技術科学大学, 総合教育院, 准教授 (10376999)
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Keywords | 談話分析 / 語用論 / 第二言語習得 / 日本人英語学習者 / 不同意 / 方略 / 談話標識 / 交渉 |
Research Abstract |
本研究では、日本語を母語とする英語学習者を対象者として、意見対立場面における様々な行動(「調整方略」)に焦点をあてて談話の分析を試みる。学習者が用いる調整方略の特徴とその発達のメカニズムについて調査を進め、平成24年度は以下の成果を得た。 1.学習者が、noを連発する現象(例 “Is it in Saitama?” “No no no no no.”)について、前年度に行った口頭発表の内容に加筆し論文として報告した(山本, 2013)。(1)noが並置されやすい位置を特定し、(2)noの並置が否定を明示的に伝える方略として用いられていることを示した。次に、(3)この方略が用いられる要因として、face (Brown & Levinson, 1987)への配慮や日本語からの転移などの可能性を指摘した。 2.一般的に、人は褒められると、謙遜(自分自身を称賛しない)と協調(褒め手に異議を唱えない)の兼ね合いをはかりながら応答をする。潜在的な対立場面として、褒めとその応答の連鎖に着目して談話分析を行い、得られた知見を口頭にて発表した(山本,2012)。学習者は、(1)言語的な方略よりも笑いや沈黙という非言語的方略に頼る傾向があり、(2)会話相手による褒めの連鎖を、自分から終結させるのは困難であること、しかし(3)英語母語話者との接触経験を重ねると、母語話者を模倣した応答や終結を行うようになることを明らかにした。 3.学習者と英語母語話者の間で誤解や不信が芽生え、それが交渉を経て解消されるまでの過程を検討した(山本,投稿中)。その結果、(1)誤解や不信は、学習者の英語運用能力の不完全さだけでなく、双方が持っている知識や経験の正当性のせめぎ合いによっても引き起こされると示した。また(2)誤解や不信をめぐる交渉の談話は、母語話者の主導によって構成されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既に収集しデータベース化した発話資料に基づき、調査を進めている。平成23年度までは研究課題1(「日本人英語学習者が用いる調整方略の特徴を、母語話者と比較しながら明らかにするとともに、調整方略の発達過程の一端を実証的に示す」)への取り組みを中心に進めた。平成24年度は並行して、課題2「調整方略の発達がどのような要因によって促されるのか」への取り組みに着手し、その研究成果を発表した。 ただし、資料が女性学習者の発話のみに限定されているため、得られた知見がどの程度まで一般化できるのかという点についての検証が十分ではない。資料を追加収集しデータベースを拡充して、調査を重ねることが望ましいと思われる。そのために、今年度は、調査協力機関と資料収集の時期や方法などについて調整を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
1.当初の研究計画に沿って、引き続き研究課題1、2について調査を進め、その成果の公開を進める。(1)発話資料に基づき日本人英語学習者(およびその会話相手の英語母語話者ら)の調整方略について、複数の観点から記述する。(2)言語学(語用論、談話分析、認知言語学)と第二言語習得研究分野で提案された主要な理論に目配りしながら考察する。具体的には、Politeness(Brown & Levinson, 1987)、Usage Based Model(Langacker, 1987; Tomasello, 2003)、Interaction Hypotheses(Long, 1983)などを参照し、解釈を試みる。 2.発話資料のデータベースを充実させる。特に、男性、TOEICスコア500未満の初~中級学習者の発話資料を集める。また、可能であれば、接触場面(協力者場面)だけでなく、第三者場面や母語場面(Fan, 1992)における発話資料を収集する。横断的な大規模学習者コーパス(例.The NICT JLE Corpus)の活用も検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23、24年度から継続して必要な支出項目として、備品費、消耗品費、旅費などがある。これらは、研究成果の報告や、最新の研究動向の把握のための図書や国内・海外旅費、印刷費などに充当する。 本年度の配分額と平成24年度からの繰越分は、主に発話資料の追加収集のために使用する。会話の録画・録音に用いる備品や消耗品費の補充、国内・海外旅費、謝金(調査協力者、データベース化と資料整理の作業の一部を依頼する補助者ほか)などへの支出を予定している。
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Research Products
(2 results)