2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720313
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 陽一 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (40568466)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 旅 / 近世 / 仙台藩 / 名所 / 観光 / 松島 / 温泉 |
Research Abstract |
本研究の目的は、近世・近代における地域社会と民衆動向の展開を観光の視点から捉えて描出し、観光地の形成過程を歴史的に解明することである。その中で、具体的な研究課題としたのは、現代社会で主流となっている名所旧跡や温泉をめぐる旅を対象に、旅行者の旅に対する意識や旅先となる地域住民の対応の動静を分析である。 当該年度の主要な作業課題は、歴史研究の基礎でもあり、研究価値の創出に不可欠である未見・未使用史料の調査(収集)であった。この作業は、研究代表者が以前に調査を実施していた仙台藩領の村役人文書(槻山家文書)から着手した。槻山家は江戸時代の後半に村役人をつとめ、明治時代には温泉の開発にも従事する地域の有力者である。調査では、まず温泉開発をはじめる以前の地域の運営状況を解明すべく、近世後期の租税に関する文書を撮影した。撮影コマ数は約4500である。 また、東京の史料保存機関においても調査を実施した。宮内庁書陵部では、仙台藩領の地誌『仙台領名所旧跡』や東北を旅した旅行者の紀行文『道のおくのにき』などの史料を閲覧しており、近日中に複写を申請する予定である。また、国立国会図書館では『仙台鹿の子』『仙台萩』といった地誌や『松島紀行』『松島行記』といった塩釜・松島旅行の紀行文を入手(複写)した。これらの史料のうち、地誌類はこれまであまり研究上で使用されたことがなく、紀行文類は当該機関のみに所蔵されている、未使用の文献である。 このほか、地誌・紀行文を含む仙台藩に関する基本文献を網羅した『仙台叢書』全29巻を購入した。入手した史料は、逐次解読に着手しており、主として仙台藩領の名所旧跡に関する情報や、東北地方での旅行者の行動パターンについて知見を深めつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度の中心的作業である史料調査は、東北地方(特に仙台藩領)に関する基礎的文献および紀行文等旅行者側の記録の収集と、旅行者が訪れる地域側(塩釜・松島および仙台藩領の温泉)の文書収集という2つの方向性をもって進める予定であった。 このうち前者に関しては、仙台藩領に関する地誌や紀行文の収集を進めており、作業はある程度順調に進んでいるといえる。後者の地域側の史料については、以前からの継続となる温泉開発者槻山家の文書調査を定期的に行っている。ただ、重点対象地域の1つである塩釜・松島が東北地方太平洋沖地震によって被災し、混乱した状況にあるため、具体的な調査を実施するための足掛かりを得るに至っていないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においても、当該年度に実施してきた史料調査を継続する。ただ、塩釜・松島地域の史料に関しては調査実施の目途が立っていないため、当初の計画を変更し、地域側の史料収集は温泉開発者槻山家の文書を中心に行っていきたい。具体的には、同家が温泉開発に乗り出す以前の史料収集を継続する予定である。 一方、旅行者側の記録と主に仙台藩領に関する基礎文献の収集も継続する。これまでは宮城県内や東京での調査が中心であったが、次年度では他の東北各県の図書館や資料館、さらには関東全体や西日本にも調査の網を広げていく予定である。また、旅行先に関しては、塩釜・松島に限定することなく、出羽三山や平泉など、他の名所旧跡を来訪した旅行者の記録についても収集していきたい。 史料調査と並行して、次年度は収集史料の解読と分析にも力を注ぐ。旅行先での人々の行動を詳細に解析し、その特徴や名所旧跡に対する旅行者の認識を浮き彫りにすることで、地域が観光地へと変容していく契機となる時期の解明につなげたい。なお、旅や観光の歴史的研究の先行業績に関しても、個別論文などからの分析作業を続けていく。 以上のような次年度の作業について、史料調査は1年を通して平均的に実施していく予定である。また、史料の解読と分析はなるべく上半期に推進し、下半期には成果を学会やシンポジウムで報告し、さらには論文にもまとめていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費(直接経費)では、物品費に200,000円、旅費に250,000円、人件費・謝金に200,000円、その他に150,000円の計800,000を計上している。 最大の計上額となっている旅費は、史料調査のために使用する。東北6県のほか、関東・西日本へ、月に1度程度の調査を計画している。調査対象となる史料は貴重書が多く、現地での個人による写真撮影が基本的に不可能であるため、収集のためには史料の複写ないしは印刷を申請する必要がある。したがって、「その他」として計上している150,000円の多くを調査先での文書の複写・印刷代に充てる予定である。また、史料調査を実施するにあたっては、どの機関にどのような史料が所蔵されているかをなるべく早い段階で把握し、旅行計画を立てる必要がある。人件費・謝金は、主に調査の準備として、大学院生に収集対象史料の所在リスト作りを担当してもらうための費用である。 このほか、物品費は近世の仙台藩関係の文献や自治体史、さらには先行研究文献の購入費として計上している。
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