2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720313
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 陽一 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (40568466)
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Keywords | 旅 / 近世 / 自然景観 / 名所 / 観光 / 仙台藩 / 温泉 / 松島 |
Research Abstract |
本研究の目的は、近世・近代における地域社会と民衆動向の展開を観光の観点から捉えて描出し、観光地の形成過程を歴史的に解明することである。その中で、具体的な研究課題としているのは、現代社会で主流となっている名所旧跡や自然景観、温泉をめぐる旅を対象に、旅行者の旅に対する意識や旅先となる地域住民の動静を分析することである。 当該年度の作業課題は、近世に東北地方を旅した旅行者の記録(旅日記・道中日記・紀行文)の収集、旅先となる対象(松島・塩釜などの名所や温泉)を数多く内包する仙台藩領内の地誌や名所案内類の収集、旅先地域側の史料収集、及びそれらの解読・分析と成果の発表であった。 史料の収集に関して、天理大学天理図書館での調査で『遊松島記』『北枕』といった紀行文や、『奥州名所図会』といった仙台藩関係の地誌・名所案内を収集した。また、茨城県歴史館の調査においては、『奥州海道行程記』など十数点の紀行文を撮影し、東京の逓信総合博物館においても、全国版の名所案内や道中案内を撮影した。旅先地域側に関しては前年度に引き続き一関市博物館蔵の槻山家文書を撮影した。同家は江戸時代に村役人を務め、明治以降には温泉の開発など、地域の発展に尽力している。撮影したのは江戸時代の古文書で、コマ数は約5000である。 収集した史料の分析は目下進行中であるが、槻山家文書の史料分析をもとにした研究報告「天保飢饉時(1830年代)における村の社会経済状況―仙台藩領村落の年貢負担分析をもとに―」を行った。槻山家が所在する村の近世後期の社会経済状況を分析したもので、温泉の開発とは直接結びつかないが、その前提の、開発前の地域の状況を明らかにする基礎的作業として位置づけたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度より調査の方向性を改め、旅先地域側の史料収集を一関市博物館蔵の槻山家文書に絞り、旅行者の記録と仙台藩関係の文献収集に力点を置くこととした。槻山家文書の撮影作業は学生の補助を得ながら比較的順調に進んでいるが、旅行者側の記録については全国に散らばる記録の所在把握に存外の時間を要し、当該年度の夏頃に学生の補助を得て所在把握作業が進捗し、収集作業もようやく軌道に乗り始めたところである。また、史料の収集を重視しているため、分析作業にも若干の遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においても、これまで実施してきた史料収集のための調査を当面は継続する。旅行者の記録については、所在リストが充実しつつあるので、これをもとに各史料保存機関で撮影、複写作業を行う。また、旅先地域側の槻山家文書については、明治時代の温泉開発期の文書撮影を本格的に行っていきたい。 収集史料の分析に関しては、特に旅行者の記録に関して基礎的作業を重点的に行いたい。具体的には、旅行者を、東北地方を目的地として訪れた者と東北地方を通過して他所へ赴いた者に分類し、双方の行動ルートを解析してその特徴を見出したい。また、自然景観や名所旧跡、温泉を訪れる旅行者の行動を細かく分析し、年代による行動や意識の変化が見いだせないか検証し、旅先地域が観光地へと変容する起点を検出する足がかりを得たいと考えている。 こうした基礎的作業の結果を次年度の中期頃に学会等で報告し、それを土台に後期には論文にまとめ、成果報告につなげていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、物品費に50,000円、旅費に150,000円、人件費・謝金に250,000円、その他に50,000円を計上している。 次年度においても史料収集調査を継続するため、繰り越し分の研究費を旅費に重点的に配分する予定である。主な調査先としては東北6県の図書館のほか、東京の国立資料館や埼玉県立文書館などを予定している。その他の経費は、主に調査時の文献複写代を想定している。 人件費・謝金は、学生に依頼している史料の所在リスト作成、及び一関市博物館での史料撮影の補助作業にかかる費用である。なお、現在の所在リストから、史料の中には活字化され刊行されているものも少なくないことが判明している。物品費については、そうした文献の購入に充てたいと考えている。
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Research Products
(2 results)