2011 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本における在本土沖縄出身者ネットワークの実証的研究
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23720327
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
戸邉 秀明 東京経済大学, 経済学部, 講師 (90366998)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日本現代史 / 沖縄戦後史 / 越境 / 移民ネットワーク |
Research Abstract |
平成23年度の調査にもとづき、以下の2点の研究論文を発表した(いずれの論文の末尾にも助成金交付の成果である旨、及び課題番号を明記した)。 1.「越境者たちの復帰運動:1950年代前半における在日本沖縄人学生の組織と意識」(『沖縄文化研究』第38号、法政大学沖縄文化研究所、2012年3月、pp.435-508) 2.「「非日本人」送還問題と「沖縄人」という主体:〈戦後〉形成期における「共生」への問い」(神戸大学大学院人文学研究科共生倫理研究会編・発行『共生の多様性』2012年3月、pp.31-47) 1は、23年度の沖縄への調査によって収集した新史料にもとづき、これまで空白期とされてきた1950年代の在東京沖縄出身者の動静を沖縄出身学生の運動を中心に分析した。当該期の在日本沖縄出身者の社会運動に関して、関連史料の体系的収集にもとづき、書誌的検討をふまえた実証研究としては、学界においてもこれが初めての成果である。なお、本論文の発表は研究計画では平成24年度の予定であったが、掲載誌を発行する研究機関にて発表の機会を与えられたため、前倒しして執筆・発表した。 2は、これまで発表した関連論文をふまえて、本研究課題に関する現時点での総括的な見取図を描くとともに、それを位置づけるために必要な枠組を、冷戦初期日本における〈「非日本人」送還体制〉として捉える視角を仮説的に提起した。この仮説は、本研究課題を、沖縄という地域史の領域にとどめず、より広く戦後東アジアにおける冷戦体制(とそれへの対抗運動)の研究へと媒介するために不可欠な視座である。なお、本論文は、発行主体である神戸大学学内研究機関に招聘されて実施した研究報告(2012年3月2日)にもとづいている。 なお、他に発表した関連業績は「研究発表」欄を参照されたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、現地調査にもとづき、早期に研究論文を発表できた(「研究実績の概要」参照)。また史料体系構築のための史料収集については、東京における史料所在機関での調査・史料収集、および南九州地域(熊本市・鹿児島市・宮崎市)での現地調査・史料収集を実施計画にもとづいて実施し、相当の成果が得られた。 ただし、以下の理由から、当初予定していた23年度実施計画と相違した。その結果、一部計画については、24年度に持ち越した上で、早期に実施する。1.24年度に実施を予定していた内容の史料紹介や研究論文の執筆・発表については、発表する機会が得られたために先行して実施した。このため、23年度に予定していた史料紹介・研究論文の執筆・発表は24年度に実施する。2.23年度計画で実施を予定していた浦賀・名古屋・広島の日本本土3地域への現地調査は実施できなかった。他方、沖縄での現地調査は、実施計画通りの1回に加えて、年度末に実施して計2回となった。後者の年度末の調査は、故屋嘉比収(沖縄大学准教授)旧蔵の本研究課題と関連の深い歴史史料(複写分含む)について、調査と貸与の機会を得たため、急遽実施した調査であった。そのため、予定していた日本本土3地域への現地調査を見送り、24年度に実施する予定を立てている。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度の予定を変更したために実施を見送った計画については、24年度計画に加えて実施する。研究計画は、24年度もおおむね予定通り実施できると思われるが、23年度調査の結果を反映して、以下の点について変更もしくは補強して実施する。 1.在日本奄美出身者ネットワークの重視:特に鹿児島県域および兵庫県域においては、沖縄出身者と奄美出身者の在住地域には重なりが多いため、後者のコミュニティやネットワークの実態について調査し、これと沖縄出身者のコミュニティやネットワークとの比較や関連を検証する必要がある。そこで、鹿児島市での再調査、および奄美大島での現地調査について、23年度以上に重点をおいて実施する。 2.神奈川県域における在日本沖縄出身者の動静調査:関東でもっとも強い集団性を維持していた神奈川県域(特に川崎市・横浜市・逗子市・横須賀市)における彼らの存在実態について、神奈川県下の史料所在機関での調査および史料収集を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)史料体系構築のための史料収集(2年目) i.沖縄:史料所蔵機関における未公開史料へのアクセスを図るとともに、未調査の自治体および個人の所蔵史料について、事前の問い合わせをもとに追加調査を実施する(特にうるま市・名護市での調査を予定)。ii.奄美(経由地の鹿児島市域での再調査を含む):旧名瀬市域他と鹿児島市において、在本土奄美出身者のネットワークに関する史料調査を実施する。 iii.九州北部:送還港の佐世保を中心とする九州北部について、事前のインターネット検索や自治体への問い合わせをふまえて史料の調査・収集を実施する。iv.関西:県人会の活動が活発であった兵庫・大阪地域に関して、在本土奄美出身者との接触が多かった兵庫圏域を中心に、関連自治体所蔵史料の調査を実施する。また京阪神地域の紙誌類における沖縄出身者関連記事の検索・収集も進める。v.東京都・神奈川県:東京都において、収集を終えていない史料所在機関での閲覧・収集を実施し、さらに神奈川県下の史料所在機関(神奈川県公文書館等)での調査・閲覧と史料収集を実施する。vi.本土送還港所在地(浦賀・名古屋・広島):1946年に沖縄出身者の集団送還の送出港となった港の所在地のうち、九州(鹿児島・佐世保)を除く3地域への調査を実施する。自治体所蔵史料の調査、及び当該期の紙誌類の記事探索を行う。(2)史料紹介・研究論文の執筆と発表:23年度に収集した史料のうち、鹿児島で1947~48年に発行されていた雑誌『新沖縄』に掲載された沖縄人連盟関係の主要記事を精選して翻刻し、注記・解説及び総目次を付した史料紹介論文を執筆・発表する。あわせて同誌を主要な史料として、鹿児島における沖縄出身者および奄美出身者コミュニティの変遷を歴史的に再構成する研究論文を執筆・発表する。
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