2012 Fiscal Year Research-status Report
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23720337
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Research Institution | Oshima National College of Maritime Technology |
Principal Investigator |
田口 由香 大島商船高等専門学校, その他部局等, 講師 (00390500)
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Keywords | 日本史 / 近現代史 / 明治維新史 / イギリス / 長州藩 |
Research Abstract |
平成24年度(当該年度)に実施した研究の成果としては、イギリス国内の社会層における幕末日本の認識を明らかにしたことである。本研究の目的は、日英の史料を国家機関から個人レベルまで分析することで、幕末期の日本における国際関係を多角的な視点から解明することである。本年度は、第二次長州出兵を開始した1865年(慶応元年)から、幕長戦争が開戦する1866年(慶応2年)を対象として、イギリス新聞の分析を行った。その分析視点として本年度は政府員個人レベルを予定していたが、イギリス国内の全体像を解明するには社会層の視点が必要と考え、社会層の認識に関する分析に取り組んだ。おもにイギリス新聞を分析したのは、その記事を情報源とする読者を含めた社会層が何に関心をもち、日本の状況をどのように認識していたのかを明らかにすることができると考えるためである。分析の結果、次の点が明らかになった。まず、第二次長州出兵段階の記事では、大名が外国貿易を望んでいることに言及しながら、貿易維持の視点から幕府を支持する立場がみられた。次に、幕長戦争段階の記事においても、幕府支持の立場がみられていたが、休戦協定締結後には貿易拡大の視点から長州藩を含む雄藩連合を支持する立場への移行がみられた。 本研究成果の意義としては、社会層においても、新聞記事をとおして日本国内の情勢を認識していたことを明らかにしたことである。また、本研究成果の重要性としては、社会層では、貿易利益という現実的な視点からより有利な方を支持する傾向がみられることを明らかにしたことである。この研究成果は、論文「幕長戦争期におけるイギリス新聞の分析―イギリス国内の認識を視点として―」(大島商船高等専門学校紀要第45号)、史料紹介「明治維新史研究におけるイギリス新聞の活用 ―British Newspapersデータベース―」(山口県史研究21号)に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の達成度について、概ね順調に進展していると言える。本研究では、幕末期の日本における国際関係を多角的な視点から解明することを目的として、日本国内の史料とイギリス国内の史料を国家機関レベルから個人レベルまで分析する。本研究期間は3年であり、1年目は国家機関レベルとしてイギリス政府や駐日公使を中心とした史料分析を行い、2年目となる本年度はイギリス国内の社会層を中心とした史料分析を行った。最終年度は、イギリス側の史料に加え、日本国内の史料として長州藩の政府から個人レベルまでの分析を行うことで、多角的な解明を達成する予定である。 史料調査も順調に進展している。本年度は、おもにイギリス新聞の分析を行ったが、平行して政府や政府員レベルの史料収集も進めるため、次のような調査を行った。京都大学地域研究統合情報センターにおいて京セラ文庫「英国議会資料」のデータベース(旅費は勤務校の教育研究費から支出)、大英図書館においてイギリス新聞のデータベース(Gale 社を通して日本国内からオンラインで閲覧できるものもある)を利用して収集し、山口県立図書館において『日本初期新聞全集』を用いて補足を行った。またケンブリッジ大学図書館のアーネスト・サトウ蔵書を収集した。 また、これまでの研究成果は次のように発表している。研究論文では上記の研究実績の概要にあげた2点を発表し、学会発表では山口県地方史研究大会(2012年6月17日)と広島史学研究大会日本史部会(2012年10月28日)、国際学会では11th Annual HAWAII International conference on ARTS and HUMANITIES(2013年1月11日、旅費は勤務校の教育研究費から支出)を行い、国内外においてその成果を発表することで多角的な視点から意見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の研究の推進方策としては、日本国内の史料として長州藩の政府から個人レベルまでの分析を行い、イギリス国内の史料と比較対照することで多角的な解明を行う。 これまで、1864年(元治元年)から1866年(慶応2年)の長州出兵から幕長戦争の時期を対象として、おもにイギリス側の政府・社会層レベルの分析を行ってきた。その分析結果として、イギリス政府レベルにおいて、幕府と諸大名の対立が幕府の貿易独占によるものと認識していること、諸大名は諸外国との貿易を望んでおり、外国人への敵対心も幕府の貿易独占が原因という認識があることが明らかになった。また、社会層においても、大名が外国貿易を望んでいると認識していること、対立する幕府と長州藩に対して貿易利益という現実的な視点からより有利な方を支持する傾向があることが明らかになった。しかし、このようなイギリス側の認識が、実際の長州藩側の方針や動向を正確に把握したものかどうかを長州藩側の史料によって明らかにする必要がある。よって、今後は、長州藩側の方針や動向を分析し、イギリス側の認識と比較対照することで多角的に国際関係を解明する。特に、イギリス側には、諸大名が幕府の貿易独占に不満をもち、諸外国との直接貿易を望んでいるとする認識がみられるため、長州藩における1865年(慶応元年)の馬関(下関)開港問題を中心に分析を行う。長州藩は馬関開港のために長崎の英国駐日領事ガワーと協議を行っており、その内容はイギリス側史料では英国公文書館所蔵の外務省資料(FO46/54)、長州藩側史料では山口県文書館所蔵の「忠正公伝」などに見ることができる。最終年度として、双方の史料を比較対照することで、幕末期の日本における国際関係を多角的な視点から解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度(平成25年度)の研究費の使用計画としては、最終年度となるため、研究成果を発表する学会発表の旅費、イギリス国内と日本国内の史料調査の旅費、また文献複写費、関係書籍やその他消耗品の購入に使用することを計画している。本研究では、日本国内とイギリス国内に所蔵されている史料による多角的な分析が必要となるため、史料調査の旅費が大部分を占めている。平成24年度の研究費において「次年度に使用する予定の研究費」(繰越分)が生じた状況は、イギリス滞在期間が予定していた2・3週間から11日間と短くなったためである。この繰越分は、翌年度(平成25年度)以降に請求する研究費と合わせて、イギリスでの史料調査の旅費に使用することを予定している。平成25年度は最終年度のため23・24年度より研究費を縮小している。よって、その縮小分を補填することができる。 具体的な旅費使用計画としては、イギリス国内の史料調査のため、10日から2週間程度、ロンドンとケンブリッジに滞在して英国公文書館とケンブリッジ大学図書館を訪問することを予定している。また、次年度はイギリス側の史料に加え、日本国内の史料として長州藩の政府から個人レベルまでの分析を行う計画である。よって、日本国内の史料調査では、山口県文書館(山口市)を数回訪問することを予定している。学会発表では、10月下旬に東広島市で開催される広島史学研究大会において発表することを予定している。 以上のように、今後の研究を推進し、また最終年度として研究成果を発表するため、研究費を使用することを計画している。
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Research Products
(7 results)