2011 Fiscal Year Research-status Report
開港期朝鮮の対日外交政策研究―漁業問題をめぐる条約の締結過程と運用実態を中心に―
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23720344
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
酒井 裕美 大阪大学, 世界言語研究センター, 講師 (80547563)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 朝鮮 / 外交史 / 日朝関係 |
Research Abstract |
朝貢と冊封に基づく清を中心とした「伝統」的外交体制としての国際関係が成立していた東アジアにおいて、19紀後半以後は、西洋国際法に則った条約によって規定される「近代」的外交体制としての国際関係が形成され始めた草創期であり、それはまた「不平等条約」体制の形成期でもあった。この渦中にあって朝鮮は、日本や清とは異なる、独自の構造をもった外交政策を展開していた。申請者はこれまでの研究を通じて、開港期における朝鮮外交の基本方針の一つには、「伝統」的・「近代」的外交体制が錯綜する当時の国際状況を背景として、条約本文の規定自体を自国に有利に制定するよりも、条約の解釈、運用によって自国の利益を最大限に引き出そうとする考え方があったとの見通しを持つにいたった。本研究の目的は、より具体的な論証によってこの見通しに肉付けを行うことを通して、このような朝鮮外交の動態的な構造を、より立体的に描き出そうとするものである。本年度は具体的に、「不平等条約」の主要要素とされている最恵国待遇条項をめぐる問題について分析し、整理した。朝米修好通商条約(1882年)において初めて朝鮮が締結した条約に添入された最恵国条項は、壬午軍乱後に成立した朝清商民水陸貿易章程において清との宗属関係と合わせて議論せざるを得なくなった。このような状況の変化を受けて、朝鮮は、その後締結した日朝通商章程(1883年)、朝英修好通商条約(1884年)において、条文自体に最恵国条項を拒否する主張は積極的に行っていない。しかし、実際に最恵国条項を外交に適用することになる条約の均霑問題について、アメリカに対しては、国際社会の慣習に従う姿勢を示すために、要求通りに均霑を実施した一方、日本に対しては、条文に独自の解釈を加え、自国の利益を損なわない形での均霑を模索していたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の研究計画においては、これまで外交問題としてはほとんど検討されてこなかった漁業問題を取りあげ、日朝間において1883年に締結される「日本漁民取扱規則」(以後「取扱規則」と略す)と、1889年締結の「日本朝鮮両国通漁規則」(以後「通漁規則」と略す)について、それぞれの制定交渉過程、制定後の運用実態を明らかにすることとしていた。しかし、「取扱規則」締結交渉過程は、先に言及した均霑問題と時期的に重なっており、相互に影響を与えている可能性が考えられたため、本年度はまず均霑問題について整理を行うこととしたため、漁業問題についての本格的な分析まで研究を進めることができなかった。 また、本研究では方法として未刊行資料の調査・収集・分析を積極的に行うこととしている。この点について、韓国のソウル大学校奎章閣韓国学研究院所蔵分についての調査・収集は進展したが、東京の外交史料館所蔵分についての調査が十分な日数を確保できず、予定の領域に達していない。 さらに、勤務大学における業務の関係で、韓国出張日程の調整がむずかしく、本年度に予定していた韓国の学会における研究発表と、韓国古簡札研究会主催の草書講習セミナーへの参加を実現できなかった点も、研究遅延の要因として挙げておく必要があると認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果をふまえ、早速漁業問題の検討に入りたい。まず取り組みたいのは、現在すでに入手済みの未刊行史料である、日本側史料「日韓通漁規則訂約雑件」(外務省記録)、朝鮮側史料「釜山監理署牒報」(釜山開港場に置かれていた朝鮮政府の地方機関である釜山監理署が統理交渉通商事務衙門に上げた報告書)などの解読である。 そのうえで平成24年度は、「取扱規則」締結交渉とその運用実態についての研究をすすめ、韓国の学会における研究発表を経て、論文としてまとめることを目標とする。早い段階で、東京の外交史料館における資料調査を完了させることは、その前提となるであろう。 平成25年度は、「通漁規則」が締結された1889年前後の資料調査を、奎章閣を中心に行いながら、収集資料の解読・分析をすすめ、平成26年度終了までに、「通寮規則」の締結交渉、運用実態について、それぞれ学会における研究発表を経て、論文としてまとめることを目標とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、本年度実現できなかった草書講習セミナーへの参加(3週間)、韓国の学会における研究発表(1週間)のため、韓国・ソウルへの主張を予定しているほか、東京の外交史料館における資料調査(1週間)を行うので、旅費として約60万円を使用する計画である。 また、平成23年度に購入予定であった物品について、大型モニターなど、未購入のものがあるので、これらを追加購入するため約30万円を使用する予定である。その他、資料集、書籍の購入に約30万円、複写、セミナー参加費などに約20万円の使用を計画している。
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Research Products
(2 results)