2011 Fiscal Year Research-status Report
戦後東アジアにおける在外モンゴル人の社会形成と政治動向
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23720346
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中 剛 神戸大学, その他の研究科, 研究員 (10542136)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | モンゴル / 台湾 / 戦後日本 / 中華民国 / 国共内戦 / 留学生 / 移民 / 越境 |
Research Abstract |
本研究は、モンゴル高原や中国大陸から離れて暮らすモンゴル人を「在外モンゴル人」と位置づけ、第二次世界大戦後の東アジアにおける在外モンゴル人社会の形成過程とその維持、そして彼らの政治動向について実証的に解明することを目的とするものである。 平成23年度は、日本や台湾における在外モンゴル人社会の形成過程を明らかにすることを目標に、モンゴル人がいつ、いかなる契機で、どのような経路をたどって海を渡ったのか、といった問題について研究を実施した。具体的には次の二点である。第一は、モンゴル人留日学生について。戦後日本に滞在したモンゴル人の多くは、日中戦争期に内モンゴルから派遣された留日学生であった。とりわけ多くのモンゴル人が留学した先が北海道帝国大学であり、戦後の定住先のひとつが札幌であった。北海道や東京で留学生関連の資料を蒐集し、北海道帝大留学生の関係者に対して聞き取り調査を行った。その内容の一端は、教育研究ワークショップ「現代中国と東アジアの新環境」(2011年8月)や「辛亥革命100周年記念国際シンポジウム」(2011年12月)で口頭報告した。第二は、モンゴル人の台湾移住について。台湾には現在、「蒙族籍」を持つ461名のモンゴル人が暮らしている。彼らが台湾へ渡る契機は、1940年代後半の国共内戦と1949年の中華人民共和国成立であったが、蒙蔵委員会などを通じて当時の状況をよく知る第一世代の方々を紹介いただいて聞き取り調査を実施した。この調査を通じて台湾に渡ったモンゴル人は中華民国政府官僚、民意代表、軍人、学生に類別できること、渡台後はモンゴル各地方の同郷者同士でコミュニティを形成したことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始にあたって「交付申請書」には、平成23年度の実施計画に次の四点をあげた。(1)在日モンゴル人の実態と動向にかんする実証的研究の展開、(2)北海道での現地調査、(3)台湾におけるモンゴル人社会の現地調査、資料の閲覧・蒐集、(4)アメリカでの資料の閲覧・蒐集である。 このうち(1)については本研究を開始するにあたって、第二次大戦終結直後の在日モンゴル人の来日経緯を明らかにすることが、今後の研究の可能性や方向性をより明確化するために不可欠と考え、まず戦前におけるモンゴル人の日本留学について分析をすすめた。その成果は、教育研究ワークショップ「現代中国と東アジアの新環境」(2011年8月)や「辛亥革命100周年記念国際シンポジウム」(2011年12月)など国内外で口頭報告した。(2)については、戦前に多くのモンゴル人が留学した先が北海道帝国大学などであり、戦後の定住先のひとつが札幌であったことから、北海道大学図書館や岩見沢市立図書館、帯広市図書館などで資料蒐集を行い、関係者に対して聞き取り調査を実施した。また調査は東京、群馬でも行い、これらによって従来未解明であった多くの事実が明らかになった。(3)については、台湾政府の蒙蔵委員会を訪問して在台モンゴル人の現状を把握し、また関係者を紹介いただいて順次、聞き取り調査を行った。あわせて中国国民党党史館、国史館、国家図書館で文献を蒐集した。(4)について、アメリカでの調査ができなかったことは遺憾である。ただこれは、少なからぬ在台モンゴル人が1980~90年代に北米へ移住したことを台湾での調査で知り、彼らへの聞き取り調査とアメリカでの資料蒐集を組み合わせることが効率的であると判断して、在米モンゴル人との連絡調整ができる次年度までアメリカでの調査を見送ったためである。以上のことから本研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後については、平成23年度に得られた研究成果を基にして日本のみならず、台湾のモンゴル人社会について現地調査・資料収集を行い、研究の深化をはかるよう研究を推進する。 平成24年度は次の三点に重点を置く。(1)岩手での現地調査:北海道帝国大学に次いで戦前にモンゴル人学生の多く留学した先が盛岡高等農林学校(現岩手大学)であり、戦争末期には留日モンゴル人学生の疎開先が盛岡であった。岩手大学や岩手県立図書館で資料を蒐集し、岩手在住の関係者に対して聞き取り調査を実施する。(2)台湾におけるモンゴル人社会の現地調査、資料の閲覧・蒐集:前年度に引き続き現地調査と資料蒐集を行う。とくに関係者に対する聞き取り調査に力点を置く。(3)アメリカでの資料の閲覧・蒐集:アメリカ公文書館の所蔵文書を閲覧・蒐集し、在台モンゴル人とアメリカ政府との関係を立体的に解明する。また在米モンゴル人と連絡調整ができるようであれば、聞き取り調査も実施したいと考えている。 研究計画の最終年度にあたる平成25年度は、前年度までに未消化の計画がある場合は、それを消化しつつ、研究成果をまとめる予定である。具体的には次の四点である。(1)台湾におけるモンゴル人社会の現地調査、資料の閲覧・蒐集。引き続き関係者に対するインタヴューに力点を置く。(2)インタヴュー記録の整理:インタヴュー記録を整理し、ネイティブ・スピーカーの校閲を受けて文字化する。(3)イギリスでの資料の閲覧・蒐集:英国図書館・東洋インド省コレクションおよび英国国立公文書館を系統的に調査してインドに避難したモンゴル人の実態とイギリス政府の対応を解明する。(4)学術会議での研究報告:学術会議に参加し、研究成果のブラッシュアップをはかると同時に、本研究で得られた知見を共有する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費は、直接経費800,000円と間接経費240,000円の計1,040,000円に平成23年度の直接経費繰越金437,561円を加えた1,477,561円となる。 このうち24年度直接経費の内訳については、「交付申請書」の記載に準じた適正な使用を計画している。すなわち(1)「物品費」82,000円、(2)「旅費」630,000円、(3)「人件費・謝金」48,000円、(4)「その他」70,000円の計800,000円である。(1)「物品費」については、関係図書60,000円、プリンター22,000円とした。ただし、図書については、アメリカでの資料撮影がより重要と判断した場合には、撮影機材(カメラ、撮影スタンド等)の購入に振返ることも検討している。またプリンターについては23年度の台湾調査で年配の在台モンゴル人は、インターネット環境に慣れず、FAXでの連絡が簡便であると感じたことから、FAX機能付きのプリンターの購入を考えている。(2)については、国内旅費215,000円、海外旅費415,000円とする。国内旅費は岩手での調査のほか、東京などでの調査・学会発表を、海外旅費は台湾での調査を予定している。ただ、当初24年度の実施を計画していたイギリスでの調査を25年度に回したことから、最終的にはイギリス調査の旅費分の繰り越しが生じる可能性もある。(3)「人件費・謝金」については、聞き取り調査記録の文字起しにかかわる資料整理に18,000円、調査補助に30,000円とする。(4)「その他」については、文書館・図書館などでの資料複写費に20,000円、岩手など地方在住の関係者に対する聞き取り調査を円滑に進めるための自動車レンタル費に20,000円とする。そしてこれに前年度からの繰り越し437,561円は、実施を24年度に見送ったアメリカ調査の費用がほとんどである。
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