2012 Fiscal Year Research-status Report
戦後東アジアにおける在外モンゴル人の社会形成と政治動向
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23720346
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中 剛 神戸大学, その他の研究科, 研究員 (10542136)
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Keywords | モンゴル / 台湾 / 戦後日本 / 中華民国 / 国共内戦 / 留学生 / 移民 / 越境 |
Research Abstract |
本研究は、モンゴル高原や中国大陸から離れて暮らすモンゴル人を「在外モンゴル人」と位置づけ、第二次世界大戦後の東アジアにおける在外モンゴル人社会の形成過程とその維持、そして彼らの政治動向について実証的に解明することを目的とするものである。 平成24年度は、日本や台湾における在外モンゴル人社会の形成過程を明らかにすることを目標に、モンゴル人がいつ、いかなる契機で、どのような経路をたどって海を渡ったのか、といった問題について研究を実施した。文献資料だけでは明らかにすることが出来ない在外モンゴル人のヴィヴィッドな歴史を解明するため、本年度は日本や台湾で聞き取り調査を集中的に行なった。具体的には次の二点である。 第一は、モンゴル人留日学生について。戦後日本に滞在したモンゴル人の多くは、日中戦争期に内モンゴルから派遣された留日学生であり、終戦直前にモンゴル人留日学生の疎開した先が盛岡農林専門学校や岩手師範学校であった。岩手大学や東京で留学生関連の資料を蒐集し、盛岡市や宮古市などで関係者に対して聞き取り調査を行った。 第二は、モンゴル人の台湾移住について。台湾には現在、「蒙族籍」を持つ461名のモンゴル人が暮らしている。彼らが台湾へ渡る契機は、1940年代後半の国共内戦と1949年の中華人民共和国成立であった。台湾政府の蒙蔵委員会などを通じて当時の状況をよく知る第一世代を紹介して頂き、あわせて10名から聞き取りをすることができた。この調査を通じて台湾に渡ったモンゴル人は中華民国政府官僚、民意代表、軍人、学生に類別できること、台湾の中華民国政府は、唯一の「中国正統国家」であることを主張する根拠を得るため、在台モンゴル人に接近したことが明らかとなった。その内容の一端は、アジア政経学会2012年全国大会(2012年10月14日)で口頭報告を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始にあたって「交付申請書」には、平成24年度の実施計画に次の3点をあげた。(1)岩手での現地調査、(2)台湾におけるモンゴル人社会の現地調査、資料の閲覧・蒐集、(3)イギリスでの資料の閲覧・蒐集である。 このうち(1)について、戦前日本でモンゴル人が多く留学した先は、北海道帝国大学と盛岡農林専門学校であり、戦争末期に日本全国のモンゴル人留日学生が疎開した先が盛岡市であった。このことから、岩手大学図書館や同大学教育学部、岩手県立図書館などで資料蒐集を行い、盛岡市や宮古市で関係者に対して聞き取り調査を実施した。これらによって従来未解明であった多くの事実が明らかになった。(2)については、台湾政府の蒙蔵委員会に関係者を紹介いただいて順次、聞き取り調査を行い、計10名の在台モンゴル人の方々から貴重な経験について聞き取りすることができた。あわせて台湾大学や政治大学、中国国民党党史館、国史館、国家図書館で文献を蒐集した。調査によって得られた知見については、アジア政経学会2012年全国大会(2012年10月14日)において「戦後台湾におけるモンゴル人社会の形成」のテーマで口頭報告を行なった。(3)について、イギリスでの調査ができなかったことは遺憾である。ただこれは、在台モンゴル人の第一世代がみな高齢で、彼らに対する聞き取り調査が緊急課題であると判断し、台湾での調査に重点を置いたためである。イギリスでの調査は資料の閲覧・蒐集を計画していたが、在台湾イギリス領事館の文書は国史館で確認することができたので、インドに滞在していたモンゴル人をめぐるイギリス政府と中華民国政府の動きについて確認することができた。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後については、平成24年度に得られた研究成果を基にして日本や台湾のモンゴル人社会について現地調査・資料蒐集を引き続き行い、研究成果をまとめる。 平成25年度は次の三点に重点を置く。(1)日本での現地調査:北海道と岩手で実施した調査の結果をもとに、日本国内での聞き取り調査、資料蒐集を引き続き行い、モンゴル人留日学生の戦後日本における実態を明らかにする。(2)台湾におけるモンゴル人社会の現地調査、資料の閲覧・蒐集:前年度に引き続き現地調査と資料蒐集を行う。とくに関係者に対する聞き取り調査に力点を置く。(3)北米での資料の閲覧・蒐集:昨年度の台湾での調査でアメリカ在住のモンゴル人から聞き取りを行なうことが出来た。これによって、戦後台湾に大陸から渡ってきたモンゴル人第1世代の10数名は現在、アメリカ・カナダの北米大陸に在住していることが分かった。北米に在住するモンゴル人から聞き取り調査を行い、あわせて図書館・史料館などで資料蒐集も実施したいと考えている。(4)学術会議への参加と研究成果のまとめ:学術会議に参加して研究成果のブラッシュアップをはかると同時に、本研究で得られた知見を共有する。また、3年間の研究成果をまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は、直接経費500,000円と間接経費150,000円の計650,000円に平成24年度の直接経費繰越金326,936円を加えた976,936円となる。 このうち25年度直接経費の内訳については、「交付申請書」の記載に準じて適正に使用する。すなわち(1)「物品費」70,000円、(2)「旅費」330,000円、(3)「人件費・謝金」30,000円、(4)「その他」70,000円の計500,000円である。(1)「物品費」については、関係図書30,000円、ソフトウェア40,000円とした。(2)については、国内旅費60,000円、海外旅費270,000円とする。国内旅費は東京などでの調査・学会発表を、海外旅費は台湾での調査を予定している。(3)「人件費・謝金」については、聞き取り調査記録の文字起しにかかわる資料整理に30,000円とする。(4)「その他」については、文書館・図書館などでの資料複写費に20,000円、研究成果の報告書を作成する印刷費に50,000円とする。そしてこれに前年度からの繰り越し326,936円は、実施を23年度に見送ったアメリカ調査にかかわる費用がほとんどであるので、北米での調査旅費にあてたい。
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