2012 Fiscal Year Research-status Report
現代韓国の労働運動とキリスト教;1965-1970年を中心に
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23720349
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
斉藤 涼子 学習院大学, 付置研究所, 研究員 (50599842)
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Keywords | 国際研究者交流 / 労働運動史 / 宗教学 / ジェンダー |
Research Abstract |
平成23年度に得られた結果を基にして、更なる史料の発掘と整理、その検討を中心に研究を推進した。本研究は、労働史におけるキリスト教会の役割として、主にソウル永登浦地区で労働運動支援活動を展開した「永登浦産業宣教会」や仁川地区で同様の活動を継続した「仁川産業宣教会」を分析するものだが、特に当該年度において研究上大きな進展があったのがハワイ大学コリア研究センターにおける資料調査と整理の推進である。 当センターには植民地期(1930年代)から解放後1960年代までの、年代的広がりを持つ資料群が豊富であり、それらのほとんどは米国人宣教師である父子二代に渡って集められた朝鮮社会状況調査である。前年度から継続して調査している朝鮮におけるミッション事業に関する多数の文書資料は、キリスト教会が行った、朝鮮総督府に対する政治交渉、民族運動への関与、解放後韓国でのミッション拡大事業等に関する知見を深めることができ、どのようにしてキリスト教会が朝鮮社会に影響したのかについて歴史的な経緯をより深く検討することができた。 解放後の韓国におけるキリスト教会運動、布教の展開には米国キリスト教会の影響が大きかったこと、主だった都市産業宣教会が米国長老会の指示を受けて展開されたことを鑑みるに、当該資料の発掘は本研究に大きな示唆を与えるものである。各都市の産業宣教会および労働者宣教の実態について洞察を深めるにあたって、より大きな視点である「韓国教会における米国キリスト教会の役割と影響」という枠組みについて深い知見を得ることとなった。 以上の成果は、韓国社会におけるキリスト教会の役割をよりグローバルに検討する必要を感じさせるものであり、今後の研究の発展に意義深い成果が残せたと考える。また、韓国資料の整理と分析に関しても1960年代のものについてほぼ終了し、日韓都市産業宣教会の国際会議にも参加し多くの知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初よりの計画であった文書史料の発掘は、平成23年度の基礎作業を引き継ぎつつ順調に遂行されている。ハワイ大学コリア研究センターにおける米国キリスト教会のミッション事業に関する資料の発掘とその整理、検討が更に進んだことは当初の計画以上の進展と言える。前年度に遅延していた韓国資料の整理と分析に関しても1960年代に作成された資料についてはほぼ終了し、更に、日韓都市産業宣教会の国際会議に参加したことにより、現在の都市労働者(都市生活者)に対する教会事業についても新たな知見を得ることができた。 しかしながら、米国キリスト教会というより大きな分析枠組みを得たことにより、当初の計画であった日本教会と韓国教会の関わりあいというテーマについては、国際会議の参加によって新たな知見を得つつも、資料を継続して収集するに留まり、その整理と分析は遅延している。また、昨年は韓国が大統領選挙を控えていたことが影響し、聞き取り対象者の都合からインタビュー調査を断念することとなった。 これらは当初の計画より遅延したものであるが、今後の研究の進展によって挽回可能な状況であり、新資料の発掘と検討が進んでいることは、結果として本研究に深みを与えることにつながるため、研究計画全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成25年度は、今までの研究調査を推進しつつ、研究成果を発表することとする。 研究調査の推進は、ハワイ大学コリア研究センターでの文書資料の継続調査、韓国におけるキリスト教会関係者、労働運動関係者への聞き取り調査の遂行を主とする。一方で、日本における韓国キリスト教会との連帯的関わりについても既に収集済みの資料について検討し、また、韓国のキリスト教会と継続的な関わりを有している日本のキリスト教会、あるいは在日キリスト教会の関係者についても可能な限り聞き取りを行い、研究の発展と深まりを求める。 研究成果の発表については、既に2013年9月に開催される市民講座において、研究内容を報告する依頼を受諾している。今までの研究成果を市民講座を通じて社会に還元する機会であるため、これを有益に活用しつつ、成果物としての博士論文執筆を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費については、本研究の一つの区切りを迎えるため、成果物である博士論文執筆に必要な資料収集と調査に対して中心的に使用することを予定している。 継続調査先としてハワイ大学コリア研究センターへの滞在調査(約10日間)に旅費30万円程度、韓国ソウルへの滞在調査(約14日間)に旅費20万円程度を見込んでいる。また、文書資料調査および聞き取り調査として国内出張(全体で1週間程度)に旅費約10万円を計上し、朝鮮近現代史関連図書購入費および博士論文印刷費、謝金等におよそ10万円の支出を見込むが、これらは平成24年度からの未使用分からの使用を予定する。
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Research Products
(1 results)