2012 Fiscal Year Research-status Report
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23720351
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
飯山 知保 早稲田大学, 高等研究所, 准教授 (20549513)
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Keywords | 国際研究者交流:中華人民共和国山西省 / 国際情報交換:アメリカ合衆国ハーバード大学 / 現地調査:中華人民共和国山西省・河南省 / 中国華北前近代社会史 / 碑刻 / 多文化社会とその変遷 / 自己認識の変化と史料 / 宗族 |
Research Abstract |
本研究の目的は、碑刻史料の現地調査に基づき、中国華北社会における「宗族」概念の変化を通時的に解明することにある。 2012年5月と8月に中国山西省・陝西省にて現地調査を行い、その結果は「“孫公亮墓”碑刻群の研究―12-14世紀華北における“先瑩碑”の出現と系譜伝承の変遷―」, 『アジア・アフリカ言語文化研究』, 第85号, pp.61-170, 2013年3月.として刊行された。また、現地調査の成果について、アメリカ・ドイツ・フランス・中国の国際学会にてそれぞれ研究発表を行い、それぞれの国の研究者から有益なフィードバックを得ることができた。 2012年8月には河南省でも現地調査を行い、この結果は “Mongols, Confucians, and the Dragon King: the Ritual Transformation of a Non-Han Community in the Yuan, Ming, and Qing,”としてまとめられ、Asia Major, 27-1 (June, 2014)に条件付きで採用された(修訂期限は2013年9月)。また、The Journal of Song-Yuan Studies, vol. 44 (September, 2014)へ投稿した論文も、採用が条件付きで決まっている。その他、中国でも関連する報告を複数行ない、その中のひとつ「金元時期北方社会演変与“先瑩碑”的出現」を中国の学術誌『中国史研究』に投稿し、これも修訂を条件として採用が決定されている。 いずれの論文・報告でも、異なる時代の異なる読者が、碑刻を自らに関心に引きつけて解釈し、「宗族」概念や自己認識の変化を促進・正統化していたことが明らかとなった。また、14世紀に立てられた碑刻が、21世紀の周辺住民の民族概念にも多大な影響を及ぼしていることも分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
山西省大同市渾源県西留村の孫公亮墓の調査およびその関連史料の使用許可をこれほど早期に、そして完全な形で得られたことは、当初の期待を上回るものであった。その成果をいち早く論文化し、まず日本語で2013年度内に公表できたことも、予測を越える進度である。また、アメリカと中国での複数の国際会議において、英語・中国語で当該研究の意義を発表し、これに対して予想を上回る反響を得ることができた。その結果が、下記【今後の研究の推進方策】で言及されている、英文および中国語での論文受理(修訂意見付き)であり、外国語での研究成果の発信という点において、当初の計画通り、あるいは、『中国史研究』への掲載に大きく近づいたという点においては、それを十分に上回ることが出来た。これらの学術論文が刊行されれば、本研究に対する国際的な関心・評価はさらに増大することが確実である。 昨年の国際学会での発表は、今年度の中国におけるさらなる現地調査へとつながっている。2013年9月には山西省での現地調査がふたたび予定されており、これについては、山西大学中国社会史研究中心から全面的な協力を得られることになっている。また、2013年3月にアメリカでの国際学会で行った発表は、コメンテーターおよび聴衆の高い評価を得、その場で来年(2014年)6月にハーバード大学で行われる国際学会への参加が決定された。 こうした研究の認知度の向上および研究協力体制の構築・拡張は、研究最終年度の計画を十分に可能とするものであり、さらなる成果をも視野におさめている。すなわち、14世紀までの「宗族」認識にとどまらず、現地調査で収集した資料を用い、その後近現代にいたるかかる認識の変遷について論じることである。この点については、Asia Majorに条件付き採用が決まっている論文で、すでに検討を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、昨年度に暫定的に採用が決まっている2本の英文論文、“Aspiring Between Two Cultures: Official and Scholarly Life of Northerner (Hanren) Literati in Yuan China,” The Journal of Song-Yuan Studies, vol. 44 (September, 2014)と“Mongols, Confucians, and the Dragon King: the Ritual Transformation of a Non-Han Community in the Yuan, Ming, and Qing,” Asia Major, 27-1 (June, 2014)の修訂と提出に最大限の努力をはらう。 さらに今年度も、中国での現地調査を行なう。具体的には、2013年9月に山西省呂梁市にて、山西大学中国社会史研究中心の張俊峰教授の援助を受けて、碑刻史料の収集調査を行なう。この調査には、Syracuse UniversityのJeehee Hong講師も同行するべく調整を進めている。 さらに、2013年9月に、清華大学の方誠峰講師と「“宋代政治史研究的新視野”国際学通研討会」(北京大学)で、パネルを組織して研究報告を行なう予定となっている。 現在英語での著書刊行の機会を得る可能性があり、これまでの2年間の研究成果および今年度の研究成果を結集し、「先瑩碑」とよばれる系譜記録碑の変遷から、前近代華北社会における「宗族」概念の特質、そしてその「中国史」上における意義について論じる著書の原稿を完成させることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まずは、北京大学での会議参加と、その後の山西省での現地調査に関する費用があげられる。今年度の調査は、山西省呂梁市を中心に、山西大学中国社会史研究中心の全面的な協力を得て行なうことになっている。具体的には、呂梁市の7箇所に点在する13-14世紀の墓地とそれらに随伴する碑刻の悉皆調査を行い、周辺住民の墓地・碑刻に対する認識も調査する。この調査には、アメリカSyracuse UniversityのJeehee Hong教授も同行することになっている。Hong教授は10-15世紀華北の彫刻や石像に関する研究で著名な美術史家であり、碑刻の様式や、それらが代表する当時の人々の世界観について分析を行なうこととなっている。Hong教授の参加費用は、Hong教授の獲得した研究資金より支出される。 また、英語での論文作成につき、その校正にも相応の費用が必要となる。その他、中国前近代社会史と碑刻に関する関連書籍の購入費用にも研究費を使用する予定である。とくに、本年は山西省での碑刻調査の報告が少なくとも10本出版される予定であるが、本研究とも密接な関係をもつ史料群であるため、その購入は必須である。 また、8月には北京にて、シカゴ大学のWU Hung教授により、碑刻と祖先祭祀に関する国際会議が開催されることとなっており、これへも参加する予定となっている。Wu教授は前近代中国美術の大家であり、参加する研究者も国際的に評価の高い人々である。ここでの議論が、本研究における、碑刻をめぐる史料論的考察に新たな啓発を与えてくれることを期待している。 これら、現地調査・学会発表・関連資料購入が、今年度の研究費使用の主な内容となる。
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