2012 Fiscal Year Research-status Report
近代中央アジアの多民族社会と帝国の統治:新疆イリ地方の事例から
Project/Area Number |
23720353
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
野田 仁 早稲田大学, イスラーム地域研究機構, 講師 (00549420)
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Keywords | カザフスタン / ロシア / 新疆 / 国際関係史 / 民族 |
Research Abstract |
本研究は、現在の中国新疆ウイグル自治区北部のイリ(伊犂)地方の歴史に着目し、19世紀後半~20世紀初頭の露清帝国の文書史料(おもにロシア側はカザフスタンおよびロシア、清朝側は中国・台湾の各機関に所蔵される未公刊文書)を調査・分析し、すでに公刊されているロシア・清朝の歴史史料とも比較しながら、イリ地方を中心とする中央アジア諸集団の紛争解決の事例と、帝国側の多民族統合・統治のために施された政策との相関を検討しようとするものである。それにより、近代中央アジアにおける複雑な多民族社会の中で発生する諸問題を住民がどのように解決しようとしていたのか、また、統治側であるロシア帝国が、あるいは同地方の中国への返還後は清朝が、どのように異民族間の紛争に関与し得たのかを考察し、近代の多民族社会における社会統合の問題を解き明かすことを目的としている。 2年度目にあたる本年度は、カザフスタン国立公文書館における調査を行い、ロシア帝国がイリ地方を統治していた期間の行政文書の調査・収集を行った。これらは裁判文書と呼ぶべきイリ地方の司法制度にかかわるもので、住民からの訴えをロシア帝国が現地の慣行ともすり合わせを行いながらどのように解決しようとしていたのかを示す貴重な史料となることが明らかになった。また民族間紛争にもロシアは積極的に関与し、地域の安定化に努めていたのである。前年度に整理した情報と合わせて、ここから明らかになった裁判の具体的な課程を元に、イリ地方における司法制度の解明、さらに露清両国間の関係の中で果たした役割などについて考察を進めることができたのは本年度の大きな成果と言えよう。 主な成果として、カザフを中心とする遊牧集団と帝国との関係について、また、上述のロシア帝国が設定した新たな司法制度が現地住民の国籍の選択に及ぼしていた影響について口頭報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外調査による史料収集・文献調査を実施し、またそれらの内容を分析することを通じて、本研究の具体的な検討対象である各民族間の係争・司法処理の状況が明らかになったことで、次年度以降の研究遂行に向けて必要な達成度を得ることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの2年間に行った作業を踏まえて、ロシア帝国自体の司法制度も踏まえつつ、ロシア統治時代イリ地方の裁判事例について分析を進め、ロシアによる司法手続きの意図を明確にする予定である。ただし、ロシアはイリ地方の旧来の領有者である清朝および清の国籍を持つ者たちにも配慮を見せており、ロシア・清朝関係の中に見える司法処理の分析も合わせて行う必要がある。この作業のために、関連する文書史料を所蔵している台湾故宮博物院および近代史研究所における調査を計画する。帝政ロシア時代の統計的資料の一部は『トルキスタン集成』として京都大学地域研究統合情報センターに所蔵されており、引き続き調査により情報を収集する。また北海道大学図書館およびスラブ研究センターにも、ロシアのイリ地方占領にかかわる相当量の史料(とくにロシア帝国陸軍文書館史料の複写版)が所蔵されており、やはり継続して調査を行い、さらにロシア・旧ソ連の学術雑誌・文献についてもフォローする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように国外では、台湾の関係機関、国内では京都大学・北海道大学に所蔵される関連史料・文献調査のための旅費の支出を予定している。またひきつづき、和洋書の関連研究文献を購入するための物品費の支出を予定している。
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