2011 Fiscal Year Research-status Report
15・16世紀フランス王権による慣習法書編纂と王国地方統治
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23720359
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
佐藤 猛 秋田大学, 教育文化学部, 講師 (30512769)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 王権 / 地方慣習法 / 高等法院 / 慣習法編纂会議 / 王領 / 諸侯国 / 王領編入 |
Research Abstract |
計画初年度に関する当初の計画・方法にそって、15・16世紀フランス王権の慣習法編纂事業に関わる次の諸点について、基礎的な研究文献の収集と講読を進めつつ、関連する史料を収集、分析した。(1)慣習法編纂の手順に関してヴァロワ家諸王が発した宣言内容、(2)実際に慣習法書が作成された地域のうち、ベリーおよびブルゴーニュ地方に関する法書編纂までの経緯、(3)地方高等法院設立との関連、(4)国王立法権の問題状況。このうち史料収集については、(1)(3)に関してすでに入手済みである慣習法編纂、諸侯国の王への服属、高等法院設立に関わる国王証書に加えて、前記(2)に関して慣習法書編纂会議の議事録収集に着手した。この史料は、慣習法書のなかに付録として収められたもので、大半の地域について未刊行であるため、パリ所在の国立文書館への海外出張を通じて、比較的早い時期に属するメーヌおよびアンジューの慣習法書を撮影、データを収集した。 以上の具体的内容にもとづき、主にブルゴーニュ地方(おもに公領側)の検討を進めた。当地では、諸侯国時代から地元で慣習法編纂の動きがみられ、王権が直接支配に入る以前に法書が編纂されたこと、そして、こうした諸侯国レヴェルないしは地域内での試みの積み重ねのうえに、王権による高等法院設立を位置づけることができることを明らかにし、その成果を後述13の雑誌論文1に公表した。従来、15世紀後半以降の慣習法書編纂については、王権が各地伝来の慣例の成文化を梃子に、国王立法権の強化を図ったことが強調されてきた。これに対して、前述の成果は、王権による地方統治が各地の伝統とのせめぎあいのなかで展開したことの一端を明らかにしており、研究史上の意義と重要性を指摘することができる。なお、このような理解に関連して、15世紀後半の国王立法権形成についての最新の研究成果の一部を後述13の雑誌論文2に紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、15・16世紀フランス王国の地方統治の特質に関して、王権と諸地域が慣習法書の編纂をめぐって、いかに衝突、妥協したのかを明らかにすることであり、本年度はまず王権サイドに視点をおいて、なぜ王権は15世紀後半に慣習法書の編纂に着手したかの解明を目標とした。 その達成度に関して、(2)おおむね順調とした理由は、1)慣習法書編纂の手順に関してヴァロワ家諸王の国王証書(刊行済)を分析し、その内容を検討、整理できたこと、2)慣習法書編纂とその手順を命じた国王証書は、従来「改革王令」という概念で捉えられ、国王立法権の確立という観点から分析されてきたのに対して、後述13の雑誌論文2に紹介した研究文献を通じて、主にその文書形式を他の国王証書と比較しつつ、国王証書全体のなかに位置づけることで、王権による慣習法書編纂命令を王の立法権やその強化という視点に縛られずに分析する視座を得ることができたこと、による。具体的には、王国各地伝来の慣習を王の名のもとに成文化し、これをパリないしそれ以外の都市所在の国王裁判所に保管するという国王政策の意義を究明するうえで、パリ周辺とは異なる法圏に居住する諸身分や民がパリ高等法院でスムーズに訴訟を進めるための措置、百年戦争の終結や諸侯国の王領化さらに経済活動の復活に伴って、慣習法圏の異なる王国住民同士の紛争を国王裁判官が裁定するケースの増大への対処、これらを通じて、国王裁判所での訴訟遅延という古くからの問題の緩和など、国王立法権の問題以外の論点から論じる展望をもつことができた。ただし、後述13の雑誌論文1は、これらの成果の一部にすぎず、そこでは慣習法編纂の手順に関する国王証書についても、一部(1454年シャルル7世モンティ=レ=トゥール王令の関連箇所)のみの分析にとどまり、シャルル8世以降については触れていないことなどを鑑みて、区分(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、シャルル7世以降のヴァロワ諸王の慣習法編纂命令とそこで想定されている法書編纂までの手順を踏まえて、慣習法書編纂会議の検討に入る。研究目的との関連で述べるならば、今後は王権サイドにくわえて、慣習法編纂に関わる地域側の動向にも視野を拡げ、王および地元側の代表者は、それまでほとんどが成文化されていなかった地域的な慣例や慣習を確定し、文字化するうえで、どのように衝突ないし妥協したのかを検討していく。 この研究を推進していく方策として、次の4つの作業を並行して進めていくことを考えている。何よりも、1)9に記載した慣習法書議事録を読み、分析することが中心的な作業となる。そのなかで、2)11後段に述べたシャルル7世以降のシャルル8世、ルイ12世が発した国王文書の内容と、各地での慣習法書編纂にいたる実際の経過を照らし合わせつつ、王権と地域の双方向的で複雑な対話の具体像を検討する。ただし、史料の残存ないし保管などの状況ゆえに、3)どの地域に対象を絞って研究を進めるかを同時に確定していかねばならない。本年度の成果から、9に述べたブルゴーニュ地方については、高等法院設立までの動向をある程度明らかにすることができたものの、諸侯国時代における慣習法返済会議の議事録は伝来していないことが判明したため、1508年という早い時期に編纂されたアンジューとメーヌについては、未刊行史料を入手した。しかし一方で、議事録が伝来し、分析可能であっても、その他の研究文献や史料状況ゆえに、編纂会議前後の状況が明らかにできないケースも十分想定しなければならない。こうした研究対象を絞り込むために、4)編纂会議にとどまらず、より広く慣習法書編纂に関して、地域毎に蓄積されてきた先行する事例研究を、これまで以上に詳細に調査し、収集と講読を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用はなし。
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Research Products
(7 results)