2012 Fiscal Year Research-status Report
15・16世紀フランス王権による慣習法書編纂と王国地方統治
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23720359
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
佐藤 猛 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (30512769)
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Keywords | シャルル7世 / シャルル8世 / ルイ12世 / 慣習法 / 慣習法成文化 / 慣習法編纂会議 / 高等法院 |
Research Abstract |
本研究の目的は、15・16世紀フランスにおいて進行した王国各地の慣習法の公的編纂事業において、王権と地域諸身分がいかに衝突ないし協力、あるいは妥協したのかを明らかにすることを通じて、百年戦争終結後の王国地方統治の特質を明らかにすることである。二年度目にあたる本年度は当初の計画に沿いながら、慣習法編纂にいたった地元側に重点をおき、主に次の3点について研究を進めた。 (1)地域の絞り込み:百年戦争後の国王統治の地方格差を考察するという当初の構想にそって、中世末期まで大規模な諸侯国が展開しながらも、その後、高等法院が設立されなかった諸地域について、成文慣習法ならびにその編纂会議の議事録を収集した。具体的には百年戦争期にベリー公国およびアンジュー公国が展開しつつも、15・16世紀中にパリ高等法院管轄に編入されたTouraine(1461編纂・1507改訂)、Berry(1481編纂・1539改訂)、Anjou(1508編纂)、Orleans (1509編纂・1583改訂)、Poitou(1514編纂)等について、史料収集を進めた。 (2)16世紀以降、慣習法の編纂ならびにその手続や公表に関する王の証書系史料の収集と講読:15世紀中のシャルル7世およびシャルル8世期については前年度に収集・講読済であるが、16世紀のルイ12世期についても同様の作業を進めた。 (3)15世紀後半以降における王国司法の変容に関わる個別論文の検討:M.Grinberg(1997、2006)、J.-L.Gazzaniga(1997)、I.Brancourt(2009)等の先行研究の考察を通じて、15・16世紀の王権周辺においては、国王法廷における訴訟手続の明快さと厳密化、法に対する臣民のアクセスの改善、これらの背景にある印刷術の普及を梃子とした識字文化の向上など、慣習法編纂に関わる重要な論点を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
区分(2)とした理由は大きくふたつある。 第一に、「9.研究実績の概要」1)に述べた成文慣習法および編纂会議議事録の収集については、研究目的と残存史料を照らし合わせながら、地域を絞り込むことができ、また各地で慣習法が成文化されるまでのプロセス、具体的には王政府による編纂会議召集の命令、編纂会議開催と議事録作成、慣習法の成文化、最後に関連する国王裁判所への登録というプロセスについて、大まかな流れを把握することできた。しかし、昨年度は海外出張の日程を取ることができず、刊行されている成文慣習法および編纂会議議事録の元となった手書史料と未刊行の国王側史料(パリの国立文書館所蔵)を収集することができなかった。それら未刊行の史料の収集・分析も合わせて、各地の成文慣習法登録までのプロセスをより緻密に復元していくことが必要となる。 第二に、「9.研究実績の概要」2)および3)で示した研究進展を通じて、15世紀中葉のシャルル7世期から16世紀前半までの王権側の措置について、1454年シャルル7世による慣習法編纂命令を受けて、15世紀末以降のシャルル8世・ルイ12世期に編纂の手続がより具体化され、16世紀前半を中心に各地で慣習法編纂が実現にいたり、さらに同世紀中葉には、当初の編纂で不備があった慣習法について改訂作業が進む一方で、それを学問的に支える「慣習法学」なる領域が成立しつつあったことを明らかにすることができた。しかし、「9.研究実績の概要」3)で示した先行研究の検討を通じて、シャルル7世とシャルル8世のあいだに位置するルイ11世(位1461-1483年)治世については、慣習法編纂に向けた動きが進まなかったことに関して、その理由などは現時点で定かではない。ルイ11世期を含めて、1450~1550年代までを視野に、慣習法編纂に関わる国王政策の紆余曲折の過程を明らかにしていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
ヴァロワ諸王の慣習法編纂命令とそこで想定されている編纂手続を踏まえて、百年戦争後の国王統治の地方格差という観点から絞り込んだ諸地域に関して、収集した編纂会議議事録を網羅的に購読し、この史料の性格を把握したうえで、編纂会議に出席した王および地元側の代表者の衝突ないし妥協の具体像を明らかにするため、方策として次の作業を進めていくことを考えている。 中世末期まで大規模な諸侯国が展開しながらも、その後パリ高等法院管轄に編入された地域の慣習法編纂会議に関して、その議事録の分析から、(1)王側および地元側の出席者の身分や王権との関係性の検討、(2)そこでの主な議論の焦点の整理、(3)前述の諸地域について、編纂会議前後の動向を考察できる史料状況の再調査、(4)(3)を踏まえて、より地域を絞り込み、王政府による編纂会議召集命令から慣習法編纂そしてその登録にいたるプロセスをできるかぎり具体的に解明、(5)編纂会議召集命令から慣習法編纂にいたる期間に関して、地域毎の違いの理由の検討。 このうち(4)については、現在の文献および史料の調査状況からアンジュー地方またはベリー地方への対象絞込みを予定している。両地域については、慣習法編纂事業と並行して行なわれたと考えられる高等法院設立に関する議論についても、その史料状況の調査に着手する。また、「11.現在までの達成度」で課題として残された現地での史料調査を継続して行なうとともに、ルイ11世期に関しては、やや古いがR. Gandilhonの個別論文とともに、同王に関する最新の治世史研究の検討を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(2 results)