2013 Fiscal Year Research-status Report
15・16世紀フランス王権による慣習法書編纂と王国地方統治
Project/Area Number |
23720359
|
Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
佐藤 猛 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (30512769)
|
Keywords | フランス王国 / 諸侯領 / アンジュー公領 / 慣習法 / パリ高等法院 / ルネ・ダンジュー |
Research Abstract |
本研究の目的は、15・16世紀のフランス各地における慣習法編纂をめぐって、王権と地元諸身分がいかに交渉、衝突したかを明らかにすることを通じ、百年戦争終結後の地方統治の特質を明らかにすることである。当初計画を念頭に、諸侯領時代の慣習法編纂に対する諸侯の活動や15世紀末以降の王領編入後との連動など、過年度の成果を踏まえ、本年度は王権と諸身分のせめぎ合いを具体的に考察しうる対象として、アンジュー公国に対象を確定し、研究を進めた。 中世末期のアンジュー諸公は地中海方面に進出する一方で、1356年以来の親王領であるアンジュー公領において、14世紀末から15世紀中葉まで数度にわたり、地元の慣習法の改訂・編纂を試みた。このうち、王領編入後の「アンジュー慣習法」のパリ高等法院への登録(1508年)を視野に、1450・60年代におけるルネ・ダンジュー公(位1434-80年)の活動に関して史料状況を調査し、その収集と講読を進めた。 ルネの命のもと、1463年1月に公布された「改訂アンジュー慣習法」の関連史料としては、その写本の一部を刊行したボタン・ボプレの研究(1877-1883)によれば、当初アンジェの会計院に保管されたテキスト原本は消失し、またその作成の際に議事録が作成されたか否かは定かではない。しかし、ルネ治世史の基本研究であるルコワ・ド・ラ・マルシュ(1875)なども参照し、また3月末アンジェおよびパリでの史料調査をもとに、以下の関連史料を収集した。A:写本(数ヴァージョン)、B:慣習法の改訂・編纂を命じたルネの書状、C:慣習法公布に関するルネの書簡、D:写本の所有者らが収集ないし自ら記した慣習法の歴史に関する記録、E:訴訟記録。 これらのうち、次期の研究課題である実務に関するEを除く史料を講読し、編纂作業の経緯、これに関わった司法役人と地元の法実務家の人物確定などを検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由について、(1)研究の素材となる史料の現存状況と収集、(2)史料の講読・分析の観点から記述する。 (1)16世紀以降の王領編入後と比べ、諸侯領時代における諸侯主導による慣習法の編纂過程は、これをめぐる為政者、司法役人、地元の弁護士・代訴人などの実務家の交渉とせめぎ合いの様子をよりリアルに明らかにしうるテーマであるが、一方で関連史料の保管・伝来状況は、王権のもとでのそれに比べて限定的といわざると得ない。そのなかで、本年度は二週間ほどの現地での史料調査・収集を行なうことができ、史料状況を大まかに把握することができた。慣習法編纂に関わる議事録が残っていないという限界はあるものの、フィールドとして選択したアンジュー公領については、「研究実績」に記載の諸侯領時代に作成された慣習法テキストの写本とともに、公発給の書状・書簡史料や同時代人の記録が比較的良く残っていることが判明した。 (2)これらの史料の講読・分析について、本年度後半期は慣習法テキスト(写本)の内容を背景に、既刊行ならびに未刊行のルネの書状・書簡の講読を進めた。この結果、ルネが1450年代後半、司法役人と地元の実務者らを中心に編纂委員会を立ち上げたものの、その作業は思うように捗らず、編纂命令が繰り返えされたこと、最終的に1463年1月、グラン・ジュールと呼ばれる公の最上級法廷において、慣習法テキストが朗読、公布されたことなどを明らかにすることができた。また、編纂作業遅延の理由としては、慣習法の内容が不明瞭なゆえに、裁判を長引かせ、報酬を水増ししていた地元の弁護士らの抵抗があったことを、間接的ながら明らかにすることができた。一方で、史料講読から浮かびあがった二つの問題について、本年度中に掘り下げて検討する予定だったが、公領諸制度に関する文献講読が進まず、実現しなかった。その詳細は次年度への課題として、次項に記載する。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度として、「研究実績」に記載の関連史料の分析にもとづいて、1463年1月「改訂アンジュー慣習法」の公布にいたる過程に関して、研究成果公表の準備を進めることが研究の基本軸となる。その際、次の3点に注目していく。 (1)公ルネの動向:「現在までの達成度」に記載のように、その大まかな展開を明らかにしているが、さらにこれを、仏王シャルル7世の動き、すなわち1454年モンティ=レ=トゥール王令による王国全土の慣習法編纂命令をはじめとする王権側の動向との関連も視野に、整理していく。 (2)慣習法編纂委員会とその作業に関わった司法役人等の確定:ルネの書状などにより、主要人物については人名が確定しており、さらに職歴などを検討中である。しかし、編纂委員として史料上で人名が確定している人物のなかには、現在集めている文献・史料だけでは、職歴などの詳細が判明しない者達もいる。かれらについては、ボタン等の公領制度史の文献をより細かく再検討しつつ、明らかにしていきたい。 (3)政治的・制度的背景:本年度、前述の関連史料を講読していくなかで、1450~60年代において、公ルネは慣習法の改訂・編纂と並行して、アンジュー公の司法全般を統括するセネシャルの交替とその職務の変更、王の高等法院管轄に対してアンジュー・メーヌを防衛するための王への陳情、グラン・ジュール改革などの施策を進めていることが判明した。よって、ルネによる慣習法の改訂と編纂作業を、中世末期フランスの王権周辺および諸侯領で広く見られた“法”の明確化という文脈のみならず、アンジュー公国(仏王国部分)の司法体制の改革という地域固有の文脈からも捉え、かつその根幹をなす政策としてその意義を検討する必要がある。 以上、3つの視点を交差させながら、慣習法テキストの公布までのプロセスを実証していく必要がある。
|
Research Products
(2 results)