2012 Fiscal Year Annual Research Report
ハンガリーにおける初期ジャコバン主義の生成と展開に関する研究
Project/Area Number |
23720364
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
中澤 達哉 福井大学, 教育地域科学部, 准教授 (60350378)
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Keywords | 国際情報交換 / ハンガリー / スロヴァキア / ジャコバン主義 / 共和主義 |
Research Abstract |
特権諸身分が君主との間で国家権力を分有するような、中世後期ハンガリー王国における合意型の身分制的君主政は、ポーランドなどの他の東中欧諸国と同様、しばしば「共和政」と呼ばれる。この共和主義は、いわゆる近代の「王のいない共和政」と異なり、「王のいる共和政」に他ならなかった。この思想はフランス革命の余波のもとで大きな変質を被ることになる。 旧ハンガリー王国の後継国家の歴史研究、例えばマジャール史学、スロヴァキア史学、クロアチア史学のなどは、後期ジャコバン主義思想(1793-95年)の理論的発展の最終段階にあたる「王のいない共和政」論、すなわち、各民族自治に基づく「ハンガリー連邦共和国」構想を根拠に、後期の思想を民族史観の上に立つ国民史の叙述のなかで高く評価した。この結果、とりわけ前期ジャコバン主義(1792-93年)の「王のいる共和政」論は社会主義期から現在までの時期を通してほぼ等閑視されてきたといってよい。 これに対して本研究は、前期ジャコバン主義における「王のいる共和政」論の存在を指摘し、その特徴を明らかにした。前期ジャコバン主義は、世襲君主の強権により啓蒙改革を断行するという近世ハプスブルク朝のヨーゼフ主義の土壌に、イギリスの制限君主制およびフランス・ジャコバン主義の共和思想が融合するかたちで出現した。これは、かつて「選挙王政の共和国」を実現していた中世ハンガリー王国のいわゆる共和主義的伝統を尊重しつつも、ハプスブルク朝による封建制および身分制の緩和ないしは撤廃をめざす啓蒙改革を補強するために、「世襲王政の共和国」論を構築するに至ったのである。つまり本研究は、従来の近代ヨーロッパ共和政史研究に対して、「王のいる共和政」論という新たな範疇の存在を提起するとともに、それには「選挙王政の共和国」と「世襲王政の共和国」という二つの政体・国家思想が存在したことを解明したのである。
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