2012 Fiscal Year Research-status Report
中世初期イングランドにおける地域社会の形成ーミッドランドの人的ネットワークー
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23720366
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
森 貴子 愛媛大学, 教育学部, 准教授 (10346661)
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Keywords | 西洋史 / アングロ・サクソン期イングランド / 裁判集会 / 王国統治 / 地域共同体 / 史料論 |
Research Abstract |
本研究は、アングロ・サクソン期社会の展開を、人々の恊働行為から形成されるネットワークに着目して追求しようとするものである。そのための具体的素材を、裁判集会に求める。紛争解決のために機能した裁判集会は、訴訟当事者のみならず、その証言を保証する多くの証人、そして集会を司る、国王をはじめとする有力者たちが一堂に会する場であり、そこでの各々の行動や人的結合関係のあり方を探ることで、中世初期イングランドにおける秩序構築の特質が浮かび上がると期待できる。 以上の目的を達成するために、平成24年度は、裁判集会に関連する先行研究の成果を集中的に摂取した。この分野の嚆矢であるP・ウォーモルドによる一連の著作によって、文書、年代記などの裁判関係史料の特質、裁判過程での記録の役割といった、史料分析の前提となる論点を整理した。さらに、訴訟事例の網羅的考察を通じた、ウォーモルドの主張――私讐から王権の介入する訴訟へ――を重要な指摘と捉えたうえで、特定地域を対象とする本研究の意義を再確認することができた。すなわち、ウォーモルドの議論の要点である、王権による州法廷の整備と機能は、確かに一面では王国統治における王権の成長と捉えることが可能だが、同時に、州法廷を現実に運営する地域共同体の存在を抜きにしては語ることができない。そして州共同体の成長および共同体と王権との関係を把握するためには、具体的な「地域」を通時的に考察する作業が必要となるのだ。同様の問題意識からケントを対象としたものとして、我が国の鶴島博和氏の業績があるが、ここではミッドランド西部、ことにウスター州を場として、研究を進展させていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者はこれまで、アングロ・サクソン期の社会経済の展開を、ことに所領の形成と変遷を軸に考察してきた。裁判集会を分析対象とする本研究は、代表者にとって新しい分野への挑戦であり、アングロ・サクソン期の訴訟に関する、また王権と地域共同体といったテーマでの先行研究を整理することに、想定した以上の時間がかかっている。 この二年間で具体化され明確化してきた課題について、これまでも研究対象とし続けてきたミッドランド西部に関する知見を活かしながら、史料分析を迅速に進めていく所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
P・ウォーモルドによってリストアップされた、アングロ・サクソン期の訴訟180例のうち、ミッドランドに関連しうるおよそ30の事例に焦点を絞り、分析を進める。係争の背景および顛末を再構成することはもちろんだが、裁判集会の開催地およびその性格(教会会議での裁判なのか、州法廷で扱われたのかなど)に注目するとともに、集会参加者(主催者や証人)の社会的身分および地理的出自を可能な限り明らかにすることで、その場その場で変動を繰り返す、動態的な「地域のかたち」を浮かび上がらせる。また、いわゆるアングロ・サクソン諸法典での規定と比較することで、裁判の実態とその社会的意味を考察するとともに、王権の果たした役割にも目を配る。 史料については、最近の史料論の成果を援用して、最大限活用できるように努める。訴訟関係の記録は、文書、年代記、事績録、奇跡譚などに散発的に見いだせるが、それぞれの史料類型に応じた理解を心がけなければならない。最も多くの訴訟を伝えているのは文書史料だが、これは勝者である教会組織によって作成される場合が殆どである。この点は一面では史料の限界ということになるが、その作成背景、主観性などを考慮することで、分析に新たな視点を導入できる可能性がある。そしてこのように史料を当時の社会的コンテクストに据えて分析するためには、できるだけオリジナルに近い状態へアプローチすることが必要となるため、その所蔵地(主としてロンドンの大英図書館)を訪問する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は、イングランド滞在のための時間を十分に確保することができず、そのために計上していた海外渡航費が残るという結果になった。 昨年度入手できなかった文献(本研究と非常に関係が深いはずの文献=ある研究者の遺稿であり草稿が、ロンドンのキングス・カレッジに保管されているとの情報を得ている)を獲得するとともに、オリジナル史料にあたるなど、今年度はより充実したイギリス滞在を目指しているので、主として海外旅費に加える形で、昨年度からの繰り越し金を有効に使いたい。
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Research Products
(1 results)