2011 Fiscal Year Research-status Report
奴隷解放期における教育と政治の社会史―米国南部解放民学校と黒人議員の事例研究
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23720368
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Research Institution | University of Niigata Prefecture |
Principal Investigator |
荒木 和華子 (高橋 和華子) 新潟県立大学, 国際地域学部, 助教 (90581778)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 解放民教育 / ペン学校 / ロバート・スモールズ / 公教育制度 / アメリカ南部史 / 再建期 / 奴隷解放 / サウスカロライナ州ビューフォート郡 |
Research Abstract |
本研究の目的は、19世紀半ばのアメリカ合衆国における「奴隷解放」という事象を、教育と政治の現場から明らかにすることである。具体的にはまず、(1)奴隷解放をめぐるこれまでの論争を整理し、(2)奴隷解放を具体化した教育活動、特に最初期の元奴隷の学校であるペン解放民学校の展開を実証的に明らかにした上で、(3)ペン学校のコミュニティを政治活動の母体とした黒人下院議員ロバート・スモールズによる教育政策を検証することである。 研究計画(概要)に記載した通り、初年度はまず、研究目的(1)の奴隷解放をめぐる論争を整理し、その軌跡を明らかにし、次に研究目的(2)の奴隷解放を実践した解放民教育の意義を説明した上で、異なる人種、性、階級、宗派、出身地域、文化を持つ人々が接触する社会「実験」の場である、1860年代当時のアメリカ社会から注目されたペン解放民学校について公教育制度確立との接点において考察した。さらに、研究目的(1)の概説を踏まえて、奴隷による自己解放をまさに自らの手で実現化した例として、(3)のロバート・スモールズを取り上げた。 研究実績として、2011年9月に『英語圏の思想・文化・歴史研究会』において「米国南部解放民学校と黒人議員の事例報告」を行い、さらに、上述した研究成果が論考(題目:"Freedpeople’s Education and its Role in the Establishment of the Modern Public Educational System in the U.S. South during the Nineteenth Century: The Case of the Penn School and Robert Smalls in Beaufort County, South Carolina,")として19世紀学学会の学会誌『19世紀学研究』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、初年度は論文執筆のための準備期間として位置づけており、マイクロフィルム等の史資料の読み込みや分析、あるいは調査や資料収集に集中しようと思っていたが、思った以上にはかどったため、すでに論考としてまとめて、査読も通り、19世紀学会誌に掲載できたので、当初の計画以上に研究は進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度発表した論考では、解放民教育がアメリカ南部の近代公教育制度確立過程において重要な役割を果たしたことについて、サウスカロライナ州の解放民学校と黒人議員を事例として実証的に明らかにした。これは先に述べた研究目的(2)(3)に関わることであるが、ペン学校とスモールズの事例は、19世紀南部黒人社会と米国の公教育の歴史を理解するにあたって従来見落とされがちであった道筋を提示するのみならず、奴隷解放後の新南部の社会「再建」における教育と政治の密接な関係性を示すことができる。よって、今後の研究の推進方策としては、再建期南部における教育と政治の関係性の考察という、さらに大きな枠組みで検証をおこない、発表し、そして論考にまとめていくことを目標としている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、まずもう一度、一次資料の精査を行う。インタビュー記録の文字化や、当時の新聞資料や議事録等に丁寧に目を通し、分析を行う。その上で、史実や発言内容の確認等さらに調査が必要となるので、史料調査や整理において研究費を使用する。また、次年度は本研究の最終年度となるので、論考をまとめていく際に、国内外からの専門家との意見交換のために旅費や、論考を完成させるにあたって、英語校正等で人件費や写真等の引用の際に著作権の問題を解決するための支払い、印刷代等で研究費を使用する予定である。
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