2011 Fiscal Year Research-status Report
トライボロジーによる石器機能推定の高確度化とその応用による先史狩猟採集民研究
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23720376
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鹿又 喜隆 東北大学, 大学院文学研究科, 准教授 (60343026)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / ロシア / モンゴル |
Research Abstract |
遺跡出土資料の分析では、北海道暁遺跡出土の60点を対象に機能研究を実施した。本研究によって、北海道の細石刃石器群において骨角器製作が実施されていたことが初めて使用痕分析によって裏付けられた。詳細は、雑誌に投稿中である。福島県大畑K遺跡の有樋尖頭器石器群では、初めて高倍率法による機能研究が行われた。スポールを主たる対象にしたが、明瞭な使用痕は確認されなかった。この点は、遺跡内での石器消費の特徴を示すものである。なお、大畑K遺跡は、発掘調査報告書が未刊であり、詳細は不明であったが、本研究で99点の石器図面を作成し、使用痕分析の結果を含めて、小冊子にまとめたことで、遺跡の内容についても公表されたことになり、その点でも意義がある。 海外遺跡の分析では、ロシア科学アカデミーシベリア支部において、沿海州の4遺跡(ウスチノフカI・II、スヴォロヴォIII・IV)を観察した。使用石材が凝灰岩主体であったため、高倍率の使用痕分析が実施できた資料は限られたが、北海道の後期旧石器時代との比較データを確保できた。器種と機能の関係の多様性を認識できる興味深い事例である。また、モンゴル・トルボル15遺跡の石器3点も観察し、高倍率法が適用可能であることを確認した。この調査で、ロシア科学アカデミーとの共同研究の基礎を築けたのは、本研究の今後にとって大きな成果であった。 使用実験については、60点の複製石器の実験を行った。被加工物と使用石材の硬度計測、ポリッシュの写真撮影、レーザー顕微鏡による表面計測を実施した。一部の分析結果を用いて、ポリッシュ形成メカニズムについて、トライボロジ―を援用した指針を示した(論文初校済み、近日刊行)。トライボロジ―を本格的に援用した初の論文となる見込みである。また、実験結果を過去の遺跡出土資料の分析結果に援用し、国際学会で研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺跡出土資料の分析は、予定通り順調に進んでいる。国内資料合わせて80点を高倍率法によって分析した。北海道の細石刃石器群と本州の有樋尖頭器では、いずれも本研究ほどの一括性をもって分析されたのは初めてである。海外遺跡資料の分析では、点数は少ないながらも、有効な情報を得ることができた。また、ロシア科学アカデミーのA.ターバレフ氏の協力により、沿海州とモンゴルの資料を分析できた。モンゴルに関しては、国内での使用痕分析事例が無いため、本研究が初の試みとなった。モンゴルのトルボル15遺跡については、24年度に本格的に分析予定である。当該遺跡の使用石材でも高倍率法が有効である点を確認できたため、共同研究を提案された。 一方、石器使用実験は、予定よりも遅れている。その理由は、震災による機器の修繕・メンテナンスに多くの時間と費用を要したためである。その状況でも複製石器60点を作成し、使用実験を実施、さらに写真撮影・表面計測まで行えたのは十分な達成度と言える。使用実験の成果についても、1つの論文としてまとめることができ、石器使用痕分析におけるトライボロジ―の有効性を示すことができた。具体的には、被加工物の硬度とポリッシュタイプの関係、流体潤滑がポリッシュ形成を促成することを示したのは、十分な成果である。 残滓分析では、適切なサンプルを新たな発掘調査によって検出できたものの、安定同位体比分析に必要な重量を確保できなかったため、断念した。PIXEによる分析を検討し、学内の研究機関に要望したが、震災のため修理中であり、23年度中には実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度に進捗が遅れた石器使用実験を優先して進めたい。研究補助の協力を得て、統計的に十分な数量の実験データを確保し、ポリッシュ表面の計測結果や被加工物の硬度などの各属性からポリッシュタイプの客観化に取り組みたい。ポリッシュの形成に及ぼす流体潤滑の効果を確認したため、ポリッシュタイプ分類の客観化と被加工物との対応関係の把握に焦点が絞られた。このためには、十分に発達した各ポリッシュタイプ資料を確保することが不可欠である。 国内の遺物分析では、山形県高瀬山遺跡と宮城県薬莱原No.15遺跡の石刃石器群(いずれも2011年度の発掘)、宮城県北小松遺跡(縄文時代晩期)、秋田県地蔵田遺跡(弥生時代前期)の分析について、関係機関からの許可を既に得ている。いずれの遺跡も優先的に分析を実施する。23年度の分析から、北海道の細石刃出現期の遺跡と細石刃消滅後の遺跡の彫刻刀形石器の分析が必要になった。この課題にも早い段階で取り組む予定である。また、23年度に取り組んだ有樋尖頭器については、明確な機能を言及できなかったため、再度取り組む必要がある。また、本学で昨年度調査した山形県高倉山遺跡では、分析に適切な調査情報を確保したので、使用痕分析を実施予定である。 海外資料では、モンゴルのトルボル15遺跡の分析を計画している。既に高倍率法が適用可能な石材であることを確認した。数量が多いため、複数年の分析も必要となる可能性がある。そのほかに、中国河南省の細石刃石器群の分析も視野に入れている。発掘担当者とは既にコンタクトをとっているため、他の分析の進捗状況に応じて実施したい。 遺物分析と実験研究の相互の成果を活かして、実験プログラムの更新と、出土石器の機能推定の確度を高めていきたい。両者の分析結果からのフィードバックによる精度向上が本研究の大きな狙いである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
顕微鏡観察の効率化を図るために、回転傾斜ステージを購入する(14,600円)。石器サイズに合わせて使い分けるため、小型の2つのサイズを必要とする。また、使用実験に用いる鹿毛皮(18,900円)と鹿角2本(16,500円)を購入する。 使用実験の研究補助に3名2~3日の作業を依頼する(50,000円)。また、資料の整理のため、2名に2~3日の作業を依頼する(30,000円)。 海外資料では、モンゴルにてトルボル15遺跡の分析を行う(旅費200,000円)。国内資料は、可能な限り借用して行う予定である(資料収集旅費46,000円)。 本研究は、基礎データの提示が重要であるが、研究雑誌に投稿する論文では、その要約が求められる。23年度には小冊子の刊行によって、急遽それを補い成果とした。24年度も同様の方法で基礎データの公表に努めたい(印刷費100,000円)。また、残滓・付着物分析を実施し(24,000円)、顕微鏡観察による機能推定の信頼性を高めていきたい。
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