2012 Fiscal Year Research-status Report
トライボロジーによる石器機能推定の高確度化とその応用による先史狩猟採集民研究
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23720376
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鹿又 喜隆 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60343026)
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Keywords | ロシア / 沿海州 / モンゴル |
Research Abstract |
北海道暁遺跡の細石刃石器群(約1.8万年前)の機能研究成果について専門誌に掲載予定である。また、北海道柏台1遺跡の初期細石刃石器群(約2.4万年前)の機能研究の成果も学術誌に掲載予定である。北海道の細石刃石器群の機能研究事例は少なく、特に組合せ式道具の存在を裏付ける研究は無かった。年代差のあるこれら2つの遺跡を対象に機能研究からこの点について初めて示すことができた。ロシア沿海州の後期旧石器時代終末期の石器群についても、3箇所の遺跡において機能研究を実施し、その成果を公表できた。モンゴルの旧石器時代資料の機能研究は、モンゴル国内では最初の研究事例であり、その成果を公表できた。分析対象は、トルボルキャッシュ遺跡と、カーガー5遺跡である。そのほかに、山形県高瀬山遺跡の杉久保系石器群の分析結果を公表した。福島県林口遺跡の機能研究も実施し、原稿を作成中である。 実験研究は、遺物観察からのフィードバックを目的のひとつとしており、レプリカ石器を製作・使用した。具体的には、秋田県下堤G遺跡の米ケ森型台形石器を参考に石器を製作し、その使用実験を行った。米ケ森型台形石器の具体的な使用復元図を作成し、分かりやすく説明し、その結果を公表した。また、宮城県薬莱原No.15遺跡の機能研究を通して課題となった、台石上での切断作業、あるいは狩猟具の着柄痕についても実験を行った。この結果は、原稿を作成済みであり、同遺跡の発掘調査報告書内で成果がを公表される予定である。 本研究では、モンゴルからロシア沿海州、北海道、東北地方にかけての広い地域の石器機能研究で成果をあげている。資料には時間幅もあり、後期旧石器時代の初頭から終末期にかけての遺跡であるが、いずれも新知見をもたらしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺跡出土資料の分析は、計画以上に順調に進んでいる。ロシア(ウスチノフカI、シュボロワIII、IV遺跡)、モンゴル(カーガー5、トルボルキャッシュ遺跡)の調査では、ロシアの共同研究者の協力によって、新たな展開が始まり、その過程で石器の機能研究がすすめられている。国内の資料についても、北海道(柏台1、暁遺跡、オルイカ遺跡)や秋田県(下堤G遺跡)、宮城県(薬莱原No.15遺跡)、山形県(高瀬山遺跡)、福島県(林口遺跡)の遺物を分析し、幅広く検討している。特に細石刃文化の研究では、広大な地域を対象とした人類の拡散と、その過程での使用にあられる適応行動の関係を理解できる可能性が見えてきた。同一の基準で広い地域を対象に分析できる利点があり、スケールの大きな研究に発展できる見通しを得た。 時代別には、後期旧石器時代の初頭から後期旧石器時代終末までの時間幅をカバーしている。当初目的は、より広く先史時代であり、縄文時代や弥生時代までの分析対象を今後補っていく必要がある。 一方で、組織的な実験研究が不十分である。それは、遺跡出土資料から提示された課題が、必ずしも組織的実験に適さなかったことも理由である。しかしながら、個別的な実験研究については、2つの事例について報告しており、比較的順調に進んでいる。ただし、トライボロジー理論の応用に基づく、統計的な解析に必要となる数量の実験資料を確保するには至っておらず、その点が課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
遺跡出土資料については、縄文時代晩期(宮城県北小松遺跡)の集石遺構から出土した遺物の分析を計画している。墓域に隣接する集石遺構であり、祭祀的遺物を多く含むことから、特殊な性格をもったと予想されている。祭祀的といわれる道具は、その機能推定がほとんどなされていないため、今回の機能研究が新知見をもたらすと期待している。本遺跡からは有機質遺物も出土しており、遺構外の石器も合わせて分析するため、剥片石器の機能研究においても被加工物と石器の関係を理解する上でも十分な成果が期待される。 そのほかに、秋田県地蔵田遺跡の弥生時代の石器、北海道の細石刃消失以降の諸遺跡、岩手県大台野遺跡の後期旧石器時代初頭の石器群、山形県清水西遺跡の後期旧石器時代前半期の石器群、青森県田向冷水遺跡のナイフ形石器などがあり、分析の許可を得ている。これらのついて、順次分析を進めていきたい。また、福島県笹山原No.27遺跡の使用痕分析の結果と、レーザー顕微鏡の利用による分析の結果を冊子の形で公開予定である。本研究は、24年度内に計画していたものであるが、資料の貸出等のために原稿作成が遅れ、刊行を延期していたものである。 海外ではエクアドルの最古段階の遺跡の分析を予定している。これは、ロシア・アメリカの研究者と共同で取り組む。低湿地遺跡であり、動物遺存体の内容と石器の機能推定の結果を比較し、被加工物推定の精度を高めることができる。 トライボロジ―の応用による機能精度の向上にむけて、総合的な実験研究を行う必要があり、実験計画を作成している。まとまった数量の実験資料を確保することが最終的な目標である。また、縄文・弥生時代の磨製石器を分析する関係で、磨製石器の基礎実験を行う必要がある。主に粘板岩製石器の製作痕跡と使用痕跡の総合的な検討になると見込まれる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外資料では、エクアドルの初期新石器時代の低地遺跡出土資料を分析する予定である。そのための旅費等が必要となる(200,000円)。 国内資料は、基本的に資料を借用して実施するものがほとんどである。そのための資料収集旅費を必要とする(38,500円)。遺物分析の進捗状況に応じて、3~4箇所の資料収集が見込まれる。特に、北海道の遺跡出土資料の検討は、継続的に実施し、成果をあげているため、本年度も実施する(50,000)。 国内外に顕微鏡を運ぶ必要があり、スーツケースを購入する(35,000円)。昨年度まで使用していたケースは、運搬時に破損したためである。 実験研究では、研究補助を用いて、体系的に実施する(75,000円)。特にポリッシュの客観的判定基準の検討のための基礎実験を行いたい。それに伴って、資料の収集・整理の作業が必要となるため、謝金と利用して実施する(75,000円)。資料分析にあたって、付着物や残滓の放射性炭素年代測定(60,000円)と安定同位体比分析(50,000円)が必要になる。 被加工物については、鹿角を実験で消費してしまったため、エゾジカ鹿角を購入したい(16,500円)。 なお、昨年度に刊行できなかった研究成果(福島県笹山原No.27遺跡の研究)をのせた冊子を、今年度の早い段階に繰越金で印刷したい。これは、雑誌などに掲載し難いページ数があり、使用痕分析結果の基礎的データと資料内容を示したものである。繰越金の残りは、もともと実験の研究補助のための謝金として確保されたものであり、同様の目的のために使用したい。
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