2013 Fiscal Year Research-status Report
トライボロジーによる石器機能推定の高確度化とその応用による先史狩猟採集民研究
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23720376
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鹿又 喜隆 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60343026)
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Keywords | エクアドル / モンゴル / ロシア / アメリカ |
Research Abstract |
海外資料では、エクアドルの先史時代・ラスベガス文化等の3遺跡から出土した石器の使用痕分析を実施し、研究成果を発表した。本格的な使用痕分析事例としては、エクアドル国内でも初例となる。南米沿岸の初期先史文化の石器使用内容を具体的に明らかにした。この共同研究の成果は、ロシア、エクアドル、アメリカからも公開される予定である。同様に、筆者自身がモンゴルでの研究成果を昨年度公表したが、さらにロシアから別な視点での研究成果が新たに提示された。 また、北海道の資料を対象に、顕微鏡を持ち運んで遺物分析をおこなった。千歳周辺と帯広周辺の後期旧石器時代の複数の遺跡を使用痕分析し、そのうち、柏台1、暁、オルイカ2遺跡の分析結果を公表した。いずれも細石刃石器群であるが、細石刃の登場から終焉に至る時期までをカバーしている。石器使用の歴史的変化を理解できる見込みを得た。帯広周辺の複数遺跡の比較研究と、千歳市オサツ16遺跡の分析結果は、論文を準備中である。 東北地方の旧石器時代の資料では、福島県林口遺跡、宮城県薬莱原No.15遺跡の石器機能研究を実施し、成果を報告した。また、山形県平林遺跡の分析を実施済みであり、報告予定である。このように多くの事例研究が蓄積されたことで、後期旧石器時代における器種と機能の変遷が読み取れるようになった。 さらに、縄文時代晩期の北小松遺跡の包含層および集石遺構の石器を対象に機能研究を実施した。集石遺構は墓域にあり、独鈷石や石冠、石棒など特殊な遺物が含まれているため、機能との関係から、それらの独特な性格について、言及した。さらに、分析器を用いた石材の色の検討も加えている。打製石器のみならず、磨製石器まで対象を広げ分析を進め、機能研究の応用範囲を広げている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺跡出土資料の分析は、予想以上に順調に進んでいる。今年度だけで、エクアドルの3遺跡、国内6遺跡の研究成果が公表できた。特に、エクアドル沿岸部の初期石器文化(ラスベガス文化)は、貝塚の形成や埋葬の出現、土偶・装飾土器など、日本の縄文文化との比較研究も可能である。さらに、北海道における旧石器時代の機能研究事例はわずかであったが、本研究を通じて細石刃石器群における石器機能研究は大きく進展した。また、東北地方でも、あらゆる時期をカバーできるように分析をおこなったため、長期的な環境変動と人類の適応行動という観点から石器の機能を理解できる見通しを得た。一連の研究では、モデル化や具体的復元図を作成するなど、一般にも理解できるよう心がけている。また、研究成果についても、インターネット上で閲覧できるように工夫している。 実験研究に関しては、エクアドルの石材(玉髄)を使用した実験や、日本の石英、黒曜石、頁岩など多様な石材を用いた実験を継続している。さらに、着柄刺突具の複製品を使用した投射実験を実施した。また、着柄石器による皮なめし実験などを蓄積し、石器着柄痕の実験成果が蓄積されてきた。しかしながら、所属研究室の震災改修工事によって、実験スペースが半減したことで、謝金を利用した体系的な実験が進められなかった。また、同じ理由によりレーザー顕微鏡の使用スペースが無くなり、トライボロジーの観点でも分析が進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は本研究の最終年度であるため、研究全体の総括を行う必要がある。第一に、既に分析を済ませた、北海道帯広市内遺跡と、千歳市オサツ16遺跡、山形県平林遺跡の継続的分析と研究成果の公表を年度前半におこないたい。また、昨年度予定していた刊行物(福島県笹山原No.27遺跡の研究)の印刷が遅れたが、年度前半に早急に実施する。新たに分析予定の遺跡としては、山形県清水西遺跡の資料がある。既に肉眼観察を終え、対象資料を選定している。発掘調査報告書内での成果発表となる予定であり、年度内に成果発表が可能かどうかは未定である。 第二に、実験成果の総括が必要となるため、新たに組織的な実験研究をおこない、年度内にまとめる予定である。既に実施した着柄実験、投射実験については、それぞれ成果をまとめ、早い段階で公表したい。また、レーザー顕微鏡による使用痕光沢面の詳細な分析を合わせて実施する。本年度半ばに研究室の改修工事が済むため、その後、集中的に実施する。 第三に、発展的研究として、エクアドルのリアルアルト遺跡の発掘調査に参加し、出土した石器の機能研究を実施する予定である。貝塚遺跡であり、有機質遺物の残存も見込まれることから、調査段階から精度の高いサンプリングを実施し、機能研究の高精度化に努めたい。さらに、フランスあるいは韓国での石器機能研究を実施し、石材の違いや地域差を越えた不偏的な分析基準の設定を模索したい。これらは、海外の研究者との共同研究を発展させたものであり、石器機能研究がより広く応用される可能性をもっている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
震災後の研究室改修工事によって、実験スペースが半減したため、謝金を用いて行う組織的な実験が困難になった。また、刊行物の印刷を予定していたが、共著者(私立高校教諭)が本務多忙のため、原稿の作成が遅れた。 次年度前半で改修工事が終了するため、スペース確保後に本格的に組織的な実験を実施する。刊行物の印刷については、基本的な原稿は既に揃っているため、次年度早々に刊行したい。
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