2011 Fiscal Year Research-status Report
アンデス文明形成期の神殿の成立~衰退の背景を村落機能・地域間ルートに着目して解く
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23720380
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鶴見 英成 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (00529068)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ペルー / アンデス / 文明 / 考古学 / 形成期 / 神殿 / 定住化 / 交易 |
Research Abstract |
南米大陸アンデス地域の諸河谷に、壮麗な神殿建築を中核とする定住村落が成立した時期を、アンデス文明の形成期と呼ぶ(紀元前3000~50年)。代表者はこれまで、河谷の一つであるヘケテペケ川の中流域にて神殿遺跡群の調査を重ねてきたが、その過程で発見したモスキート遺跡とレチューサス遺跡はそれぞれ、地域で最古の神殿、および地域で最後の形成期神殿であるとの展望を得ていた。平成23年には以下のように両遺跡の編年の検証が進み、遺構の詳細が明らかになった。【具体的内容】9~11月にペルー共和国に渡航し、両遺跡にて発掘を実施した。モスキート遺跡では最深部に至るまで土器が出土しないことを確認し、また平成21年の試掘で採取した炭化物の放射性炭素絶対年代測定を実施した結果、先土器段階にさかのぼる流域最古の神殿であるとの仮説が検証され、さらに従来の想定より大規模であることが判明した。レチューサス遺跡においては土器資料が多量に採取され、隣接地域の土器との対照によってその編年上の位置を確かめるとともに、遺構の重なり合いを検討し、創設されたのち短期間で放棄されたとの見通しを得た。両遺跡から多様な人工・自然遺物および年代測定用の炭化物が十分に採取されたため、これらの成果は平成24年度にさらに精緻に検証される。【意義】神殿建築を中核として社会が大規模化・複雑化する過程がペルー各地で解明されつつあるが、そもそも神殿はどのように成立したのか、という議論は不十分であった。神殿の成立理由は、その後維持・放棄された理由とも関係する根源的な問題である。代表者は神殿が村落の中核として機能したという点に着目し、その成立から衰退までの過程を、経済・技術などの側面から考古学的に検証しようとしている。今年度の成果は、当該地域の最初と最後と目される神殿を突き止め、実相解明のための資料を獲得し、文明形成の研究に資する点で意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表者は文明形成の過程を、神殿の村落機能および地域間ルートとの関係から解明することを長期的目標とし、とくに本研究はその基礎となる考古学データの収集を目的としている。モスキート遺跡とレチューサス遺跡の発掘調査は、社会動態を考察する上で基礎となる編年研究に関して、大きな成果を挙げた。これにより成果発表(ペルー文化省への報告書、口頭発表、および査読中の英語論文)は予定よりも速いペースで進行中であり、また十分な量の人工・自然遺物が得られたことにより、「神殿の村落機能」の研究は平成24年度に大きく進展することが見込まれる。 いっぽう、本研究におけるもう一つの着眼点である「神殿と地域間ルートの関係」という課題に関しては、荷駄獣リャマをとどめる家畜囲いなど、遺構レベルの直接的なデータは発掘を通じて得られなかった。そのため平成24年度に、2つの方針に則して研究する必要がある。第1に人工物の中に含まれる搬入品や、出土獣骨全体におけるリャマ骨の比率など、遺物分析を通じた地域間交易活動の検証である。第2にヘケテペケ川中流域一帯を踏査して景観を観察し、ルートの指標として重要な岩絵(宗教的図像を刻んだ自然岩)の登録を進め、ルートの復元をはかることである。 以上のように本研究は、平成23年度のうちに見込み以上に進んだ部分と、やむを得ず平成24年度に持ち越した部分があるため、現時点での達成度は「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度にモスキート遺跡・レチューサス遺跡から採取した炭化物を日本に搬入済みであり、速やかに年代測定に着手する。 6月にペルーに渡航し、人工遺物の分析、遺跡周辺踏査、ならびに国際会議での成果発表を行う。 8~9月に再度渡航して、人工遺物の分析と遺跡周辺踏査を完了させるとともに、採取した土壌を水洗して自然遺物を抽出し、生物種の同定をペルー国立トルヒーヨ大学考古生物研究室に委託する。 これらすべての分析結果を年度内にとりまとめ、論文および口頭にて発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額180,156円は、平成23年度に完了した放射性炭素年代測定の経費(180,000円)の請求書が、年度をまたいで処理されることになったために生じた。 平成24年度にはペルー渡航・滞在費に34万円、自然遺物分析経費に13万円、年代測定経費に43万円の支出を見込んでいる。
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