2011 Fiscal Year Research-status Report
西アジア先史農耕社会の考古学:社会史構築へ向けての比較研究
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23720382
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
門脇 誠二 名古屋大学, 博物館, 助教 (00571233)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 考古学 / アゼルバイジャン / シリア / ヨルダン / カナダ / アメリカ / 新石器 |
Research Abstract |
本研究は、西アジア先史農耕村落の社会史を考古学的に記述することを目的とし、その方法として日常の生産・消費活動の社会的コンテクストに関する考古学的記録の収集と分析を行っている。この着眼点は、農耕牧畜経済が発生した原因やプロセスをさぐる、いわゆる農耕起源の研究や、農耕牧畜の発達度を道具や動植物遺存体から査定する研究とはやや異なり、農耕牧畜が営まれた社会の多様性を明らかにすることが特色である。巨視的には農業技術や農耕社会が漸進的に発達してきたように見えても、実際に農業を営んだ人々の日常生活や社会は地域によって多様であり、また常に社会が発展的に拡大・複雑化してきたわけではないことが、近年の考古学記録から示唆されてきている。つまり、農耕社会の発達というのは微視的には「モザイク状」であり、その歴史的説明と理解を行うためには、時代や地域ごとの社会史を明らかにするのが着実な方法と考えられる。そのために、本研究ではヨルダンとシリア、アゼルバイジャンという地理的に異なる場所で営まれた新石器時代の先史農耕村落における日常活動の考古学的証拠を収集・分析している。 昨年度の研究活動には、西アジアの現地調査による標本収集と標本の記録、日本の所属機関における標本の分析、そして分析成果の発表が含まれる。現地調査の1回目は、アゼルバイジャン西部に立地する新石器時代のギョイテペ遺跡の発掘調査で、2011年7月~8月に現地滞在した。2回目も同地で2012年の1月に滞在し、これまでの発掘で採取された石器標本の記録と分析を行った。日本の所属機関では、ヨルダンのアル=バサティン遺跡から発掘された石器資料の整理と、シリアのセクル・アル=アヘイマル遺跡から採取された土壌に含まれる微細遺物(石器、骨、貝、石膏片)の分析を行った。また、研究成果の論文出版や学会発表をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.ヨルダン、アル=バサティン遺跡における石器製作場の研究 当遺跡は約7,500年前の小規模農村(約1ha)で、カナダのトロント大学の発掘調査(代表:バニング教授)に参加して石器標本を得た。以前の発掘によって、敷石床の上に集中する約200点の石器が発見され、その石器標本を日本の所属機関に送付していた。その石器形態や製作技術の分析を進めた結果を国際研究会において口頭発表した。2.シリア、セクル・アル=アヘイマル遺跡における世帯活動の研究 当遺跡は、約9,000年~8,500年前に営まれた中規模(約4.5ha)の初期農村遺跡である(調査代表:西秋良宏教授、東京大学)。この発掘調査によって得られた土壌標本が日本の所属機関に収蔵されており、その中に含まれる1cm以下の微細遺物(石器や骨、貝、石膏片)の数量とサイズの計測を行った。この土壌は、廃屋から採取されたもので、その内容物は基本的に廃棄物と思われる。その中には、細石刃やサイド・ブロウ=ブレイド・フレイクと呼ばれる特殊な黒曜石製石器が含まれている。これらの特殊な石器の製作者が専業者だったのかという問題があるが、この廃棄コンテクストを調べることによって、石器製作者の推定を行う鍵となる。3.アゼルバイジャン、ギョイテペ遺跡における世帯空間の研究 当遺跡は南コーカサス地方最大・最古の初期農耕村落であり、当地において農耕が開始されたタイミングやそれを営んだ人々の生活や社会に関する貴重な資料が得られると期待されている(調査代表:西秋良宏教授、東京大学)。2011年7月~8月の発掘調査では、泥レンガ壁による建築物の構造を明らかにしたほか、建築物内外で行われた活動を明らかにするために、遺物分布の詳細な記録や土壌標本の採集を行った。2012年1月の現地調査では、これまでに発掘された石製の食物加工具の記録と整理を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の大きな目標の1つが、アゼルバイジャン、ギョイテペ遺跡の発掘報告書の刊行である(代表:西秋良宏教授、東京大学)。この報告書で、本研究代表者は石製の食物加工具と土壌分析の報告を行う。食物加工具の主体は、栽培された穀物を製粉する大型の石皿や磨石とその製作やメンテナンスに使用されるハンマーである。このような、穀物栽培と深く関わる食物加工技術の発生がギョイテペ遺跡の居住期間(数百年)の最初から存在したのか、または途中で発達したのかという点を特に調べる予定である。土壌分析は、ギョイテペ遺跡に特徴的な土製貯蔵施設の機能(内容物)の証拠を得ることを目的としている。この貯蔵施設は、南コーカサス(西アジア北方地帯)の初期農村に特徴的な遺構であるが、その機能が明らかにされた例はこれまでない。有機物が腐敗した結果と考えられるが、本研究は土壌に含まれる植物珪酸体を検出し、その同定を行うことによって内容物の直接的証拠を得ることを目的とする(連携研究者:マルタ・ポルティヨ、バルセロナ大学)。さらに、ギョイテペ遺跡よりも古いと考えられるテペ・ハッジ・エラムハンル遺跡の発掘を予定しており、ギョイテペ遺跡における食物加工技術や貯蔵技術の発生期や過程を明らかにすることを目指す。 また、西アジア南方地帯の初期農耕村落の研究も進める。その一環として、ヨルダン南部のアイン・アブ・ネケイレ遺跡の発掘調査報告書(代表:ドナルド・ヘンリー教授、タルサ大学)が今年度に出版される予定である。本研究代表者は、穀物製粉具の技術や使用場所の分析を担当している。ヨルダン北部のアル・バサティン遺跡の発掘(代表:エドワード・バニング教授、トロント大学)によって採集された石器の分析は、名古屋大学の収蔵品の整理を継続し、それに加えてトロント大学に保管されている標本の分析を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度へ約11万円の繰越額が発生したが、これはシリアへの調査渡航予定が、現地の治安悪化によって中止されたためである。シリアでの現地調査の実施は今後もしばらく困難になることが予想されるため、次年度はアゼルバイジャンでの現地調査をより重点的に行うことで対応することを予定している。次年度のアゼルバイジャンでの現地調査は7月~8月に予定されており、ギョイテペに加えて、テペ・ハッジ・エラムハンル遺跡という新たな遺跡の発掘を開始する。この調査へ参加するための渡航・滞在費、および調査費の一部に研究費を使用する。また、ヨルダンの初期農村遺跡(アル=バサティン)から発掘され、トロント大学に収蔵されている標本の整理・研究を2013年2~3月頃に行うことを予定している。そのために、トロント大学へ渡航・滞在費に研究費の一部を使用する。また、学会への渡航費も含まれている。 この他、西アジアの野外調査で使用するカメラやパソコン、プリンタは、ホコリや熱のためにメンテナンス(場合によっては新規購入)が必要である。研究課題に関連する学術書籍(研究書や遺跡調査報告書)の購入費も含まれている。また、図面の製作や管理に関わる事務用品、そしてデータを保管するためのハードディスクなどのパソコン関連用品の購入も予定されている。
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Research Products
(19 results)