2011 Fiscal Year Research-status Report
古代マケドニアの葬制にみる伝統的文化構造とその変容に関する考古学的研究
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23720389
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Research Institution | Kyushu Kyoritsu University |
Principal Investigator |
松尾 登史子 九州共立大学, 経済学部, その他 (00598998)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 古典考古学 / ギリシア / 古代マケドニア / ヘレニズム / 葬制 |
Research Abstract |
本研究の目的は、古代マケドニア葬制の体系的な考古学的研究を行なって、古代マケドニアの構造、特に伝統的文化構造を見出し、これが南ギリシア等からの外来文化を受容して融合し、変容していく過程を解明し、後に顕在化する普遍文明的要素の萌芽を抽出することであるが、初年度は、本研究の基礎の構築にあたった。具体的には、当初の計画に従い、国内にて、主にギリシアからの文献収集、関連分野の研究者との情報交換、墓葬形態の分析(墓類型の検証と墓副葬品の構成傾向の分析)等を行なった。 ギリシアからの情報収集において、特に古代マケドニア王都ペラの最新の発掘調査報告が得られ、ペラの墓所(ネクロポリス)の全容を把握しつつある。特に、整理中の東側墓域の箱形墓と室形墓の分布状況や、両墓の副葬品の相違に着目し、被葬者の属するカテゴリー、つまり、社会階層や地位、性別や年代、等につき分析中である。その結果、同じ墓域に分布する箱形墓と室形墓では、一見室形墓のほうが裕福な階層に属するように見えるが、箱形墓の副葬品には輸入品が含まれることが多く、一方で室形墓は副葬品に質の劣る在地土器が含まれるなど、一概には決定できないということが明らかなった。これに加え、現在現地で進行中の西側墓域にも両類型の墓が含まれており、今後これらを加えて分析することにより、新たな結果と展開が得られることを期待している。 一方で、元来、騎馬遊牧民であった古代マケドニア人が南ギリシアのポリス社会からの影響のもとに北ギリシアの地に定住・都市化していく過程が、一般に文化においてもっとも保守的であるとされる葬制において伝統の保持と外来文化の受容という形で表われるという見方を、他の歴史的文化圏(東欧特にバルカン半島、中東、東アジア等)と比較することで検討していくことも行なっている。これについても次年度に、研究が進展する過程で有用となることと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的達成のためには、墓構造や副葬品、葬送儀礼や風習などの葬制全般に関わる分野のみならず、古代当時の人間活動に関わる全ての分野、生活道具となる土器や陶器、金属器や木製品など、また建築物のつくりや使用方法など、広範囲の資料収集と情報交換が必要であり、初年度は目的達成の土台作りとしてはおおむね順調に遂行し得たと考えている。現在において、実際に情報を整理して分析をすすめているのは王都ペラのみであるが、葬制に関する多岐にわたる事象、副葬品(香油瓶、ランプ、アンフォラ、スキフォス、小像など)、建築物、彫刻、風習、を同時に調査検討しながら進めているので、結果的に時間的にも空間的にも広範囲の情報を獲得・整理していることになったと考える。例えば、上述の副葬品に含まれる陶器はマケドニアのみならず東地中海全域に分布しており、マケドニア内では、ペラ以外に香油瓶に関してはヴェリア、ランプはディオンで多く出土しており、ペラの出土品との比較検討をすることで、ヴェリアとディオンの調査も進展することになる。また、ペラ出土のスキフォス(碗)の分析において、在地陶器の生産と輸入品の流通についての調査も進展することとなる。 したがって、葬制の一端を明らかにするという意味では、つまり、葬送方法と被葬者の社会階層との関連(火葬か、土葬かなどの傾向)、被葬者の階層の明確化、などの結論にはいまだ到達していないが、全般的な情報収集と研究の基礎づくりという点を重視する初年度の成果としては十分に達成し得たのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の情報収集および整理から、古代マケドニアの葬制研究には、都市構造研究、そして、当該地域を含めた周辺の先史時代の葬制や集落の研究も視野に含める必要があるのではないかという考えに至った。前者については、古代都市に存在したネクロポリスは、その名が示すように、死者の都市であり、被葬者の生前の生活の裏側の影にあたる世界であると考えれば、その光の部分である都市生活を綿密に調査することは欠かせないと考えられるからである。それは、墓構造物の内装に都市生活の一端が垣間見えるからである。一方、後者については、南ギリシアの都市国家がその初期に集住という現象により形成されたということを考えれば、マケドニアが、古代の民主主義が培われた地ではなく、騎馬遊牧民の部族的生活から定住化するに至ったということは、その都市の形成過程は南ギリシアのそれとは異なる現象として現れると考えられるからである。古代マケドニア人は、後にマケドニアと呼ばれる地の西の山麓から北東に駒を進めながら広大の王国を形成していったが、その過程で、土着の先住民族を駆逐あるいは配下に従えながら定着していったとされる。しかしマケドニア人が外来であるということはマケドニア地方の歴史時代と先史時代との断絶を意味するものではなく、先史時代の集落の分布や集落の様相を研究することでマケドニアの都市生活の土台を作り上げた要素が見えてくると考えられる。この都市生活というのは当然ながらネクロポリスも含まれ、そして、先史時代の集落研究には当時の墓所とその葬送風習などが含まれることは言うまでもない。 今後は、当初の計画通りに、まずは葬制についての情報収集およびデータベース化を進めつつ、同時に都市生活の様相、先史時代の葬制や風習からも視点を得て、例えば具体的には、副葬品器物の在地と外来の使用傾向を通時的に検証して、研究を進展させていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度に引き続き、情報収集(文献購入・複写など)のための費用が必要となる。特に文献については、入手すべきものがギリシア文献を主とし、これらは国内で入手不可能なものが多く、現地から直接購入する必要があり、またその文献発行についての最新情報の獲得も困難を伴うので、初年度に引き続き、研究費使用の重要項目としたい。 さらに、旅費への充当も重点を置きたいと考えている。国内において、初年度に引き続き、他の歴史的文化圏の葬制研究を行なっている研究者と活発に情報交換をしたいと考えているからである。また方法論についてさらに検討する必要もあるため、日本考古学の葬制研究の情報も取り入れたく、そのための活動もしたいと考えている。また、本来は当該研究は西洋古典学とも深く関連していることから、古典研究やまた一方で、建築工学の分野との学際協力も進めることを計画している。同時に、初年度からの研究成果を徐々に公開するために、学会発表や論文執筆と投稿のために費用を充てることを考えている。
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Research Products
(1 results)