2012 Fiscal Year Research-status Report
古代マケドニアの葬制にみる伝統的文化構造とその変容に関する考古学的研究
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23720389
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Research Institution | Kyushu Kyoritsu University |
Principal Investigator |
松尾 登史子 九州共立大学, 経済学部, その他 (00598998)
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Keywords | 古典考古学 / ギリシア / 古代マケドニア / ヘレニズム / 葬制 |
Research Abstract |
本研究の目的は、古代マケドニア葬制研究により、その伝統的文化構造を見出し、これが南ギリシア等の外来文化を受容・融合し変容する過程を解明し、後に顕在化する普遍文明的要素の萌芽を抽出することである。初年度では、王都ペラの墓所の代表的墓類型の被葬者の属するカテゴリーにつき検討した結果、副葬品や埋葬方法等に関する特徴はみられず、箱形墓→室形墓という方向に社会的階層が高くなる、又は時間軸が設定されるという当初の推測は再考を要することとなった。更に、マケドニアにおける都市建設、特に植民活動の重要性を考慮すれば、彼らが定住し王国を形成・拡大していく過程の墓所とその埋葬形態を、都市構造も含めて分析していくことは重要であると考えることとなった。 したがって、当該年度は、旧首都であったとされるヴェルギナの墓所分析を進めた。古代マケドニアの初期からの拠点であり、歴代の王が埋葬された地であったため、先史時代の墳墓も多く含み、マケドニアの最盛期を創出したフィリポスII世期までの墓形態を分析することにより、王国拡大との関連、特に制圧した周辺諸民族を取り込み上層部を再編していく過程が看取されるのではないかという仮定と共に墓形態の体系化を進めた。この分析において、フィリポスII世の都市建設と植民行為、そしてそれを継承し発展させたアレクサンドロスIII世の東方における同政策の検討も必要となり、今後の方向性が明らかになった。 これらの方針の下、現時点では、被葬者埋葬形態の採用・選択は出自(出身部族等)の相違に依存するという可能性を見出しつつある。一般に文化においてもっとも保守的であるとされる葬制において伝統の保持と異文化の需要という現象が、まずはマケドニアと周辺被征服民との関係において見出されるのではないかと考えている。これは、本研究の目的であるマケドニアと南ギリシアの影響関係に敷衍し得ることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的達成のためには、考古学的史料の全般を把握する必要があり、現在までに、墓構造物や副葬品、葬送儀礼、風習などの葬制全般に関わる分野の情報を収集する方向で、分類・分析・検討を重ねてきた。しかしながら、現地の発掘調査報告書は様式が統一されていないため情報の偏在が著しく、均質な情報収集には困難が伴ない、当初に提示した方法を再考・改善することにした。その結果、墓形態の体系化にあたり全ての要素を検討するのではなく、ある程度の方向性をもった的確な分析を重ねることが必要であると考え、主に墓類型と埋葬方法の関連に着目して分析を行なうことにした。つまり、前項で述べたように、古代マケドニアが王国を形成し発展させていく過程で周辺の被征服民の上層(貴族)階層を取り込んで支配組織を再編していく様相が、墓類型と埋葬方法に表れているのではないかという仮定のもとに分析・検証を進めることにした。同時に、南ギリシアやバルカン、小アジア、中東の葬制、また更に、都市や植民活動などについても視野を広げて研究を進めており、このような包括的な形で分析・検証を行なうことにより本研究の目的に的確に迫れるのではないかと考えている。 したがって、葬制の一端を明らかにするという意味では、つまり、埋葬方法と被葬者の社会階層との関連、被葬者を含む社会階層などについての結論には到達していないが、全般的な情報収集、および、研究方針の改善・明確化という点を考慮すれば、当該年度の成果として十分に達成し得たのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の情報収集および整理、分析から、ヴェルギナ・ネクロポリスの精査、具体的には、墓類型と埋葬形態(火葬・土葬)、上層(貴族)と火葬、東方遠征と火葬などについて各々の関連を引き続き検証する必要があり、同時に南ギリシアとの葬制比較、更には、都市建設と植民活動の視点からの広範囲にわたる都市構造研究も視野に入れる方針を採る。 前者については、ヴェルギナに分布する大型墓を中心に埋葬形態の分析を継続するが、副葬品についても未盗掘墓を中心に、被葬者の社会階層を明確化することを目標にして可能な限り分析を行なう。特に、発掘調査の報告や現地の研究者の見解には、火葬が上層から下層民に広がったこと、また火葬と騎士階層の関連、東方遠征以降の火葬の広まり、などが散見されるが、定性的な分析によるものでありいずれも検証されていないといえ、定量的な分析を行なって検証を行なうことが期待されている。したがって、今後の本研究においては、先史時代からヘレニズム期という古代マケドニアの発展期の重要な墓が存在するヴェルギナの分析を焦点にして、墓形態に投影されているとみられる古代マケドニア社会の発展と推移を明らかにして、本来の目的に近づいていく方策にて進める。また、初年度に進めたペラ・ネクロポリスの情報収集・分析も継続して、適宜ヴェルギナの分析結果と統合していく。一方、後者については、当該年度に引き続き今後も関連分野の情報収集に努め、これにより前者の分析結果の比較・検討に役立つ知見を得たいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度に引き続き、情報収集(文献購入・複写など)のための費用が必要となる。特に文献については、入手すべきものがギリシア文献を主とし、これらは国内で入手不可能なものが多く、現地から直接購入する必要があり、またその文献発行についての最新情報獲得も困難を伴なうので、当該年度に引き続き、研究費使用の重要項目としたい。同時に研究の円滑化のための文献複写も必要となる。さらに、旅費への充当も重点を置きたいと考えている。また、現地ギリシアの研究者との情報交換が重要であるのはいうまでもなく、文献入手のみならず、メールや郵送でのデータ入手も継続する必要がある。また、国内において、当該年度に引き続き、他の歴史的文化圏の葬制研究を行なっている研究者との情報交換を行なう一方、考古学とは直接交流が少ない歴史学の研究者との情報交換も活発に行いたいと考えている。当該年度には西洋史学の研究者との交流があり、引き続き、活発な情報・意見交換を行なっていきたい。 そして、最終年度として、研究成果を公開するために、学会発表や論文執筆と投稿のために費用を充てることが必要となる。
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Research Products
(3 results)