2011 Fiscal Year Research-status Report
北海道における小氷期最寒冷期の実態とアイヌ民族との関係
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23720391
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Research Institution | History Museum of Hokkaido |
Principal Investigator |
添田 雄二 北海道開拓記念館, 学芸部, 学芸員 (40300842)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 小氷期 / アイヌ民族 / 伊達市 |
Research Abstract |
北海道伊達市において、同市噴火湾文化研究所ほかの協力のもと、有珠地区でアイヌ時代の遺跡(カムイタプコプ下遺跡)を発掘した。また、同地区に広く分布する火山灰と古津波痕跡の年代を明らかにし(1663年有珠山火山灰、1640年駒ヶ岳火山灰および同噴火津波堆積物)、それらとの層位関係から小氷期最寒冷期の17世紀中頃に限定することができる遺溝(畑跡)を確認した。さらに、その下位には貝塚とチセ(アイヌ民族の住居址)を発見し、その上位(地表付近)にはアイヌ民族の墓を2基確認することができた。これによって、各分析に必要な堆積物や遺物を採取することができ、貝塚出土遺物の群集解析や酸素・炭素安定同位体比によって、17世紀中頃は現在よりも千島海流が強勢であったこと、夏が短かったことなど当時の異常な寒さに関するデータを蓄積することができ、また、貝塚の形成された季節についても予察的な結果を得ることができた。同時に、今後の分析によって、17世紀を含む過去数百年間の環境を復元することが可能となった。なお、チセについては北海道南部地域および噴火湾沿岸域における初めての発見となった。さらに、有珠地区での発見は、和人との関わりが深かった地域におけるアイヌ民族の生活を初めて復元することができる可能性を意味しており、考古分野に大きく貢献することとなった。隣接する白老~苫小牧地域の低地においては、地質調査の結果、小氷期に形成されたと推定されるインボリューション(周氷河現象)を発見し、当時の異常な寒さを裏付けることとなった。以上の成果については、関連学会および当館印刷物において速報として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、小氷期最寒冷期の17世紀中頃に限定することができる遺溝・遺物を含むアイヌ民族の遺跡を発掘することができ、各分析用の試料も採取することができた。各分析の予察的な結果から、当時の異常な寒さを裏付ける科学的データが蓄積されてきている。地質調査結果からも同様な見解を得ることができ、関連学会で速報として公表することができた。なお、遺物の年代測定値は年度内に明らかにする計画であったが、分析依頼先の年代測定器機が東日本大震災(東北地方太平洋沖地震・津波)関連の分析で混雑したため次年度以降となったが、それ以外はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの遺跡発掘調査で採取した各試料の分析を進め、東日本大震災の影響で遅れていた年代測定も実施する。また、当初の計画通り、これまでの発掘成果をふまえて、10月下旬に伊達市有珠において遺跡の発掘の続きを行う。なお、それまでに各分析結果をとりまとめて課題を整理し、発掘調査にそなえる。新たな発掘成果や各分析結果は速報として関連学会および当館印刷物で公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まずは東日本大震災の影響で遅れていた年代測定を至急実施する。次に、当初の計画どおり、これまでの発掘成果をふまえて、10月下旬に伊達市有珠地区において遺跡の発掘を実施する(発掘エリアは前年度の続き)。発掘成果は速報として関連学会および当館印刷物で公表する。研究費の多くはこの発掘および関連調査、学会発表のための旅費等で使用する予定であり、また、分析や作業の補助としてアルバイトを雇う。その他は、必要な文献や消耗品を購入する。
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