2012 Fiscal Year Annual Research Report
イラン、マルヴ・ダシュト盆地における新石器化の考古学的研究
Project/Area Number |
23720393
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
Principal Investigator |
安倍 雅史 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (50583308)
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Keywords | 新石器化 / 肥沃な三日月弧 / ザグロス / 紀元前6千年 |
Research Abstract |
西アジアの「肥沃な三日月弧」は農耕・牧畜の起源地として知られている。過去30年間、肥沃な三日月弧の西翼レヴァント地域では新石器時代研究が著しく進展したのに対し、肥沃な三日月弧の東翼であるザグロス地域の新石器時代研究は、不安定な政局を受け著しく停滞してきた。その結果、1990年代には、農耕・牧畜は、レヴァント地域に起源し、ザグロス地域が新石器化に果たした役割は小さいとする定説が形成された。 しかし、今世紀に入り急速に進歩した遺伝子研究は、大麦の栽培化、ヤギの家畜化はザグロス地域でも独自に始まった可能性があることを示し、ザグロス地域における本格的な考古学調査の再開が求められている。 筆者は、このような背景のもと、ザグロス地域の新石器化の具体的なプロセスを解明するため、ザグロス南部ファールス地方をフィールドに選定し、考古調査を開始した。具体的には、東京大学が1960年代に発掘したタル・イ・ムシュキ遺跡、テヘラン大学が近年発掘調査を実施したラハマタバード遺跡とカッスル・エ・アハマド遺跡、この3遺跡から出土した考古資料の分析を実施した。 分析の結果、ザグロス南部の新石器化の画期は、土器新石器時代後半の初頭、紀元前6000年頃にあったことが判明した。この時期、ザグロスに続旧石器時代から連綿と続いた細石器と細石刃の伝統が終焉している。この石器製作上の変化は、狩猟+ヤギ飼育+天水農耕の組み合わせから、ヤギ・ヒツジ飼育+灌漑農耕へと生業が変化したことと関係していると推測された。 紀元前6000年は新石器化の画期として注目されている。この時期、①中央アジアやコーカサスといった「肥沃な三日月弧」の周辺に農耕文化が普及し、②メソポタミアでは灌漑農耕を基盤としたウバイド文化が広がり、③ザグロス南部では天水農耕から灌漑農耕に移行している。今後も、紀元前6千年に何が起こったか研究を深化させていきたい。
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