2012 Fiscal Year Research-status Report
都市郊外空間における住民の地域「参加」とジェンダー再編に関する研究
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23720406
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Research Institution | Gunma Prefectural Women's University |
Principal Investigator |
関村 オリエ 群馬県立女子大学, 文学部, 専任講師 (70572478)
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Keywords | 人文地理学 / ジェンダー / 住民 / 郊外 |
Research Abstract |
2年目は、1年目に引き続き大阪府千里ニュータウンを調査対象地域として、都市郊外空間における住民の地域「参加」とジェンダー再編に関する研究を進めた。申請書に記載した「研究の目的」にもあるように、新自由主義経済原理の進展による地域の改変や、職住分離の都市空間の構造を支えてきた日本型雇用慣行の前提崩壊などを中心的テーマに据えながら、郊外空間における住民のジェンダー役割再編の分析と考察を進めた。 非正規雇用や周縁的なサービス労働への需要が増大し、公的な住宅団地の供給方針が転換される中で、さまざまな主体がこれまで以上に地域に参加する機会も増えている。そこで申請書「研究実施計画」における2年目では、事例地域として千葉県八千代市米本団地を取り上げながら、地域を舞台に展開される定住外国人(ベトナム系労働者)の生活ニーズの表出と住民の関与を通してジェンダーの再編を描きだすことを計画していた。だが、本研究のテーマとして設定した、都市郊外空間の今日的変容とジェンダー役割の再編に関する考察は、インテンシブな調査による時系列での地域比較が有効である。したがって、当初の計画を若干修正しつつ、前年度行った千里ニュータウンでの調査研究を継続することとした。 しかしながら、調査開始以来の申請者とインフォーマントとのネットワーク形成やラポールの醸成といった背景から、当初研究計画では視野にいれることができなかった地域における新たな課題の発見にも恵まれた。地域において子どもを育てる母親に注目した質的な調査を通じて、母親間で構築されたインフォーマルなネットワークが、ニュータウン全体における問題群をカバーするために機能していることも読み取ることが出来た。郊外空間における職と住などジェンダー役割によって切り離されてきた問題群を自ら接合させようとする、住民たちの欲求とそのための地域「参加」を解明することを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、グローバル化と新自由主義経済の波の中で、国や行政機能の「縮小化」傾向が地域における必要最低限の公共サービスを不足させ、ボランティアを労働の域にまで拡大することで、公共領域の貧困化を住民活動で補おうとする地域「参加」をめぐる問題を出発点としている。そのため、住民と地域との関係性はポジティヴな可能性を持つものとしては必ずしも捉えられなくなってきていることを研究の前提とし、住民の活動実践の持続的可能性とその課題を適切に解明するジェンダーの視点を踏まえながら地域「参加」の議論を行い、地域「参加」議論で看過されてきた可能性と課題を明示することこそが本研究の目的であった。 住民の地域「参加」の現状を網羅的に調査・分析するために、前年度に引き続き千里ニュータウン地域の協働管理体制を担うNPO等非営利セクターに対するインタビュー調査、統計、歴史的資料の収集を行った。1年目の実績に基づいて、2年目の研究では、地域の協働管理体制においてインフォーマルにつながる団体や個人(例えば、NPO等団体に属さず、しかし地域協働において間接的な役割を果たしている団体・個人)に焦点を当て、彼/女たちの協力のもとに質的データの収集と調査を進めた。 事例地域に向けた量的調査実施時期のずれ込みはあったものの、地域において子どもを育てる母親たちによって構築されたインフォーマルなネットワークの存在と女性たちによる地域「参加」の具体的状況を読み取ることが出来たことは大きな進展であった。
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Strategy for Future Research Activity |
先述したように、申請者は都市郊外空間における住民たちの活動実践が、職住分離の構造によって支えられてきた空間の秩序、とりわけその前提となってきた家庭・地域におけるジェンダー役割分業の仕組みと規範を乗り越える可能性を持つものであることを解明することを目指している。これにより、都市郊外空間の「縮小化」傾向とリストラクチャリングという変化の中で、空間を支えるジェンダー秩序が具体的にどのような再編を迫られているのかを明らかできると考えている。 そのため最終年である3年目は、これまで2年間行ってきた調査実績と考察の成果を踏まえて、国内最古の大規模郊外ニュータウンである千里ニュータウンでの住民の地域「参加」を整理してゆく。①NPO等に属する男性たちによるネットワークとまちづくりの実践、②仕事と育児の両立を目指す、母親のネットワークと活動実践の両方の側面から、議論の観点を浮き彫りにしてゆきたい。①、②は共に家庭や地域における住民の新たな価値観と実践の醸成を示唆するものであると考えている。 また、彼/女たちの地域「参加」の全体的状況から都市郊外空間のジェンダー再編を浮き彫りにするために、地域住民に向けた量的調査の実施とその取りまとめも行ってゆきたい。(実施時期はずれ込んでいるものの、インフォーマントの協力を得るための交渉は進んでいる。)地域「参加」の議論にジェンダーの視点を加えることは、「新しい公共」の将来を探求する上でも有意義なものになると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3年目は、これまでの事例研究を通して見えてきた新たな可能性と課題を、国内外のジェンダー地理学や既存の都市空間研究の中に位置づけるために、理論的総括や報告に時間を費やしてゆく。最終年の研究では主に、成果報告(国際地理学会参加)のための旅費と補足的調査(量的調査の実施)、および物品購入のための研究費の使用を予定している。先にも示したとおり、最終年は、成果のまとめと補足的調査を同時並行的に行うこともあり、引き続き千里ニュータウンへの訪問と滞在ための旅費、その他諸経費(調査経費を含む)が中心になってくる。 物品等については、前年度までに貴重な参考資料や書籍等を購入した。補足的に購入することはあるものの、これまでの1、2年目を通じて、ジェンダーや地域政策、「新しい公共」に関する数多くの書籍を購入できたので、理論的まとめと研究成果のために役立てたい。また成果報告であるが、国際地理学会への参加は、学会の開催が国内(京都)であるために、学会参加費と開催地までの旅費等は、海外開催ほどの大きな支出は見込まれていない。なお成果報告は、日本の事例研究について男/女の二元論を越えた有用な議論を海外に発信する機会となり、国際的なジェンダー地理学の動向に本研究を位置づけることが可能になる。そのため、国内外の社会的・学術的議論の「場」において、都市郊外空間の地域「参加」議論とジェンダー再編に関する研究を考えることのできる有意義な機会となることが期待される。
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