2011 Fiscal Year Research-status Report
都市のシティズンシップに関する地理学的研究―ミラノ・社会センターの空間的実践―
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23720408
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
北川 眞也 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 博士研究員 (10515448)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 都市 / 地理学 / 社会空間 / イタリア / ミラノ / 社会運動 / 自律性 |
Research Abstract |
2011年5月に、香港バプティスト大学で開かれた International Workshop Urban Utopianismにおいて、‘Searching for an Alternative Social Space in the City: Some Aspects of Spatial Practices of a Social Center "Leoncavallo" in Milan’と題した発表を行った。そこでは、主要な研究対象であるミラノの社会センター「レオンカヴァッロ」の歴史的変遷過程をイタリアの政治的・社会的文脈に位置づけながら発表した。この発表は、都市研究に従事する参加者たちからの関心を引き、刺激的な意見交換を行うことができた。 2012年3月には、『都市文化研究』という学術雑誌に、査読付きの論文「イタリア・ミラノにおける社会センターという自律空間の創造-社会的包摂と自律性の間で-」を公表した。レオンカヴァッロによる自主編集資料から、1994年以後の活動の方向性の整理に加えて、1970年代という社会センター誕生期の資料を分析することで、活動の連続性と非連続性を考察することができたのは、今後の研究を位置づけていく上でも重要である。また3月27日に大阪市立大学都市研究プラザのG-COE特別研究員(若手)研究員発表会においても、「例外状態に抗う自律空間の潜勢力:イタリア・ミラノの社会センターというスクウォット空間」と題した発表を行った。 2012年2月から3月にかけての時期に、ミラノの社会センター「コックス18」のPrimo Moroni アーカイブで、入手した社会センターに関する多くの歴史的資料は、平成24年度における研究の基盤をなす。また書誌を通して、既存の社会センターについての議論やミラノという都市についての議論を整理・検討してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
香港で研究発表を行い、また査読付きの学術論文を発表できたように、研究成果をすでに公表できていることは非常に重要である。 また現地調査による資料収集についても、想像していた以上に、数多くの貴重な文書資料を集めることができた。イタリア現地調査へ赴ことができたのは1度であったが、社会センター「コックス18」の保有するPrimo Morni アーカイヴにおいて、社会センター「レオンカヴァッロ」を含む過去のミラノの社会センターによって自主編集された文書や新聞、ビラなどを入手することができた。特に1990年代のみならず、1970年から1980年代の資料を入手できたことが重要であると考える。加えて、こうした社会センター活動を支える思想的・社会的背景に関する古い書誌も複写することができた。 そして資料調査のための交渉や現場での会話や議論を通して、「コックス18」に関わる人々との信頼関係を築くことができたのが、何よりの成果である。今後のアーカイヴの利用に加えて、70年代から存続するミラノの歴史的社会センターの1つとして、「コックス18」についても具体的なインタビュー調査などができる関係を築けていると考える。 またミラノという都市、そして社会センターに関わるイタリア語の様々な書誌を入手し読み進めていることも、研究の進展にとっては重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず平成23年度の現地調査で入手した資料の分析を進める。それを通して1970年代から現在に至るまでの社会センターの活動や言説を把握する。この内容の十分な理解に基づいた上で、現在の社会センターの運営者・参加者、可能であれば過去の運営者・参加者にインタビュー調査を行う。基本的にはレオンカヴァッロでの調査を予定しているが、現時点ではコックス18のインフォーマントとの信頼関係が非常に意義深くまた重要であるために、コックス18についてもインタビュー調査を含めて研究調査を行う考えもある。またイタリア各地にいる社会センターの諸事情に詳しい研究者や、別の都市の社会センターの運営者からの聞き取りも考えている。 加えて、社会センターは、スクウォッティングを通した非制度的な社会空間であるために、外部の社会的・政治的アクターがどのような態度や行動をとってきたのかを明らかにすることが重要である。そのため、ミラノの数々の新聞資料の収集・分析を行う。またこの資料分析に加え、ミラノ市の資料なども入手し分析を進める。 これらをふまえて最終年度は、なぜスクウォット空間としての社会センターが、30年以上にもわたって破壊されることなく、あるいは自滅することなく、存続してきたのかを、シティズンシップや自律性といった概念を通して理論的に検討する予定である。その存続の仮説は、下からの社会的協働が生み出した社会性の強度、またその意義や価値の承認にあると考えているが、その点について社会センターにおいてインタビュー調査や資料収集などを行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度以降も、イタリア現地調査を予定している。次年度使用額もあるため、基本的には2度の調査(10日から2週間)分の旅費は準備できると考えているが、海外での学会発表の機会が増えれば、やや長めの1度の滞在になることもありうる。また現地調査での文書資料の収集・複写に費用をあてる。新聞資料の収集などを考えると、資料が膨大になることが考えられるし、またその輸送費も必要となる。 また学会発表を行うための出張費にも充当する必要がある。11月の人文地理学会などの国内の学会に加えて、海外での発表も予定している。5月には香港のワークショップでの発表、またウェイティングの状態であるが、8月にドイツの国際地理学連合での発表にも申請をしている。 また社会センターに関する先攻研究、地理学などその他の関連分野の図書の購入のためにも研究費を用いる。それは基本的には日本語、イタリア語、英語の書誌となる。 平成24年度からの所属機関の変更に伴い、研究進行のために新たに研究環境を整える必要に迫られている。そのために、デスクトップのパソコンやプリンターなど研究用の物品費が必要となっている。
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