2012 Fiscal Year Research-status Report
入所競争率2倍時代の特養の整備拡充に向けた地域的条件と介護保険の持続可能性
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23720411
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
杉浦 真一郎 名城大学, 都市情報学部, 准教授 (50324059)
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Keywords | 特別養護老人ホーム / 施設整備 / 介護基盤 / 介護保険 / 三位一体改革 / 地域格差 |
Research Abstract |
当年度においては,全国各地域における近年の特別養護老人ホームの整備状況について整理しその特徴について分析を行った。全国の都道府県・政令市において広域型を中心とする施設整備の状況について,補助単価等の制度枠組みや法人の資金・用地調達手段への関与方針などを担当部局において聞き取りを行うとともに,整備実績および施設の立地について把握を試みた。 東京大都市圏に位置するA県では,今後の急速な高齢化と高齢人口増加を見据え,2000年代半ばから本格的に整備を加速させている。同県では,東京に近い県南部は都市化が進んでおり,用地も多くないため,65歳以上人口当たりの整備率という観点からは整備が進んでいない。県北部では比較的整備が進んでいるが,整備率は県南部よりも高い圏域も多いので,今後の整備は少なくなる。既存の特養の移転・改築については,同県では今のところ3件のみである(ほか2件がH25年およびH26年4月に移転予定)。 西日本の地方圏にあるB県では,合併による市町村数減少もあり,未整備町村はないが,今後は高齢者人口の大幅な増加も見込まれないため,新規の施設整備(とくに広域型)はさほど想定されていない。近年の補助対象(広域型特養)は毎年2~3件程度にとどまり,応募してくる案件に優劣をつけて選抜するような年度はなく,整備対象としての諸条件が満たされている案件はいずれも採択されている。政令市・中核市を除けば,新規の創設は定員が過剰となりがちである。そのため,既存施設での増築による整備が中心であって,施設単位で見ても地域(市町)単位で見ても,少しずつ増やす形態が一般化している。高齢者人口自体が横ばいから減少の局面に転じ始めている地方圏では,少なくとも30床以上の定員増となる創設による整備では,近隣市町村も含めて介護給付費への影響が懸念されることから,創設による整備には消極的になるケースが多い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度は,大震災直後から始まった前年度のような特殊な状況(予算措置が例年と比較して時期的に遅れ,また予算規模の面でも年度半ばまで不透明さが残っていたことがあり,当初計画していた夏季の調査出張の計画立案が具体化しづらかった点が大きく影響したものと考えている。また東日本大震災の影響により,とくに福島県など研究計画時に想定していた東日本諸県における調査訪問を残念ながら自粛・延期せざるを得なかった等の無視できない特別な事情などから,全体として詳細な現地調査が遅れる結果となった面がある。このほか,介護保険事業(支援)計画の改定時期と診療報酬改定の時期とが重なる6年に一度の節目が当年度末であった影響から,とくに都道府県を初めとする地方自治体における高齢者福祉担当部署の繁忙性が通常にまして高く,調査協力依頼に対して理解の得にくい年度であったこと等)の多くで支障がなくなり,おおむね予定通りの調査計画を実現することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究に引き続き,次年度においても特養の整備に関する行政(都道府県・市区町村)の役割,事業者(法人)の立地戦略,介護保険財政への影響と介護保険制度の持続可能性への影響の3点から,近年の施設整備施策の実態を明らかにするとともに,施設整備の拡充に向けた地域的条件について考察することを目的とした本研究計画を遂行するため,具体的な調査・分析計画を一つずつ着実に実施することを念頭に置いて研究を進める予定である。当年度において次年度に使用することとなった助成金分に関しては,当初予定の計画に対して外的環境の影響によって実現できなかった訪問調査等が残されているが,協力の得られにくい地方自治体(担当部署)に関しては,必要以上にその地域に拘泥することは避け,適切な代替的依頼先を早期に選別し,具体的な調査依頼を行うべく調整することによって対応したいとの方針に引き続き基づいて研究を進める考えである。こうしたことによって,当年度の調査・分析によって明らかになった地方圏での整備過剰への懸念や創設形態への消極性の背後にある施設整備がもたらす保険財政への影響について,次年度の中心的課題として保険者地域ごとの給付分析との関連性を視野に入れた研究を展開していくことを計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当年度においては,前年度に訪問調査に協力の得られた都道府県・政令市の地域を中心として,そこで得られた比較的広い地理的範囲での近年における整備状況や整備率の地域差に着目しながら,当該都道府県等の関係保険者地域を対象に,訪問調査を展開することを研究に不可欠な調査計画として考えている。本研究を遂行するべく,そうした観点から適切な依頼先(保険者地域)を抽出し,調査依頼を早い時期からに行うべく調整する予定である。
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