2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23720412
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
加藤 政洋 立命館大学, 文学部, 准教授 (30330484)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 沖縄 / 奄美諸島 / 奄美出身者 / 米軍統治 / 社会地理 / 都市形成 / 軍事基地 |
Research Abstract |
2011年度は、基礎資料の収集・整理・分析に関わる調査研究を推進し、それらに基づく知見を部分的ながらも学会発表ならびに著作のなかで公表した。 具体的には、米軍統治下における奄美-沖縄間の人口移動に関して、『うるま新報』・『沖縄タイムス』における関連記事、1940年代末~1953年7月までの奄美諸島の人口動態がわかる統計、『琉球要覧』などの関連する資料、そして沖縄県立公文書館所蔵の『沖縄在住、大島出身者名簿』と題された簿冊を収取し、現時点で統計的に把握が可能と思われる全容を明らかにした次第である。先行研究では規模のみが漠然と語られるしかなかったものの、上記資料の分析を通じて、記録に残された規模だけでなく、送り出し地域の様態、さらには移動先の分布に関しても明らかにし得たことは、大きな前進であったと言えよう。 また関連する資料として、奄美出身者の多くが含まれると思われる「無籍者」に関する記事、さらには郷友会誌なども合わせて収集した。これらは、次年度以降、奄美復帰前後の米軍統治下沖縄における奄美諸島出身者の境位を考察する上で、基礎的な資料になると思われる。より精緻な人口移動分析を踏まえて、集住/分散と互助の関わりを追究する起点としたい。 さらに、今年度の調査の過程で、奄美出身者が集住した地区の存在が浮かび上がった。これまでの研究においてそうした指摘はなく、沖縄においてはきわめて稀有な事例であると思われる。しかも、そこは歓楽街として開発された場所であり、今後の調査において、社会的ネットワークや物理的な景観を復原する必要を感じている。 以上、本年度は基礎的な資料調査・フィールドワークを重ねながら、成果発信に向けての土台をつくったといってよい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」でも述べたように、沖縄県立公文書館が所蔵する『沖縄在住、大島出身者名簿』の簿冊をすべて複写し、データベース化の作業を完了したことで、本研究は当初の計画どおりに(部分的には計画以上に)に進展している。その成果の一端は、すでに人文地理学会第274回例会で発表し、概要を公表した。 またその他の資料に関しても、(県立図書館をはじめ)主だった図書館にも所蔵されていない、入手困難と思われた文献も、幸いにして古書店などで購入することができたので、次年度以降の研究に資するものと期待できるからである。 さらにくわえて言えば、当時の状況を知るうえで重要な新聞の複写版が沖縄県立図書館の開架に配架されたことで、一度の現地調査で効率的に記事収集が可能となったことも幸いした。 なお、旧知の奄美出身者の方にヒアリングを依頼することもできたので、来年度以降に取り組んで行けるものと確信する。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、唯一ながらも米軍統治下の沖縄における奄美出身者の特定の集住地区が見いだされた。この点を、居住環境ならびに労働市場という観点から考察していくことが求められよう。とりわけ、『沖縄在住、大島出身者名簿』には、不十分ながらも職業などに関する記載がみられる。これらは、単に人口移動にとどまらない、奄美出身者の様態を明らかにする上でも貴重であり、ここに力点を置いてデータの整備に取り掛かることとしたい。予察的には、軍事基地周辺の都市形成域における従業者が多く、なかんずく軍雇用も顕著な特徴を示してる。この点をより詳細に検討したいと考えている。 このような職業の特徴などを念頭におきつつ、集住/局所的労働市場にまつわる、より詳細な調査を実施してゆきたい。そのため、複数のケーススタディを通じて予察的モノグラフを作成したいと考えている。さらに、これまでのフィールド調査の過程で知己を得た奄美出身の方へのインタヴューを重ねることで、統計・記事などからでは明らかにすることのできない、「生の声」(オーラル・ヒストリー)から、米軍統治下における在沖奄美出身者の生活過程をより豊かに復原したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の研究が思いのほか進展したため、次年度は収集した資料・物品の購入に予算を割くというよりは、データの整備ならびに(GISなどの専門的な技術を用いた)図の作製にまつわる費用が必要になると思われる。 また今年度に引き続き、鹿児島・奄美、そして沖縄における現地調査にかかる旅費も必要となるだろう。とりわけ、ヒアリングを進めたいと考えているので、インフォーマントの都合に合わせて柔軟に対応していくこととしたい。
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