2013 Fiscal Year Annual Research Report
ソロモン諸島の紛争復興と公共宗教に関する人類学的研究
Project/Area Number |
23720422
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
石森 大知 武蔵大学, 社会学部, 准教授 (90594804)
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Keywords | 文化人類学 / 紛争 / 公共宗教 / ソロモン諸島 |
Research Abstract |
本研究は、メラネシアのソロモン諸島を対象とし、公共宗教の概念を踏まえ、キリスト教会が紛争解決に向けて実施した諸活動を明らかにするものである。民族紛争期において、同諸島最大宗派のアングリカン系メラネシア教会は、超自然的な力への信仰を背景として、対立するマライタ島民とガダルカナル島民を仲介する役割を果たした。たとえば、村落住民に精神的安息を与え、また人びとの安全な移動および生活必需品の輸送などの点で救いを差し伸べてきた。ただし、それは公共領域というよりも、一教会の社会貢献活動というべきものであった。なぜなら、当該教会の固有価値内での活動という意味合いが強く、またそれを享受した人びとも「教会およびブラザーの神聖性による守護」といった信仰を有していたからである。 一方、ポスト紛争期において、メラネシア教会は公共領域に積極的に参入し、教会連盟として政府の対豪州政策を中心に批判を展開するなど国家政治に介入した。こうした活動については村落住民も一定の評価をしていたといえる。また、同教会は、ローカルガバナンスの構築にも力を入れ、海外ドナーの援助を受けて「包括的コミュニティ・プログラム」を実施した。しかし、このプログラムにおける西洋的な言説や女性の役割などが一般住民には受け入れられず、内容面に関して「外部者のもの」とされた。すなわち、教会が海外ドナーと手を組んで公共領域で実施した活動は、グラスルーツに根付くところまでは至っていないといえる。以上を踏まえれば、公共宗教の概念は、ソロモン諸島において生成・浸透しているとは言い難いことが明らかとなった。
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