2012 Fiscal Year Research-status Report
中国ビルマ国境域における民族景観の変容と国境域文化の創造に関する人類学的研究
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23720426
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
木村 自 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (10390717)
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Keywords | 国境域 |
Research Abstract |
当該研究は、中国とミャンマーの国境域において生じているヒト、モノ、情報の流動が、当該社会における文化や社会制度にいかなる変容を与えているのかについて明らかにするものである。そのため、昨年度に引き続き本年度も、中国雲南省の瑞麗市において、国境域の人口や情報の流動に関するフィールド調査を行った。とくに、ミャンマーから瑞麗市に移住し、ミャンマー人居住コミュニティにおいて生活している複数の個人から聞き取り調査を行った。また、ミャンマーと中国国境域のミャンマー側に集合しているカチン族難民の居住地区にも入り、難民の生活に関する現状調査を行った。その結果、国境域としての瑞麗は文化や社会システムの混淆する部分と、アジール的な部分が存在していることが了解できた。 調査協力者は、88年のミャンマー民主化運動とその後の政府による民主化弾圧に伴い、ミャンマーから中国領に流入した。パスポートなどの身分証を持っていたわけではなく、書類上は不法移民として瑞麗市に居住していた。家族の呼び寄せ等を経て、現在では子供と妻、さらに子供の妻なども中国側で生活している。IDを証明する何らのドキュメントも有していなかったため、中国からの出国もできず、宝石商などを営んでいた。調査協力者の息子の妻は中国人である。 他方、国境域の性格は同時にアジール性を帯びている。訪問したミャンマー中国国境のミャンマー側は、ミャンマー北部カチン州の難民が集まっている。ミャンマーの民主化にも関わらず、ミャンマー北部のカチン州ではミャンマー政府軍とカチン独立軍との紛争が生じている。その結果生じた難民(正確には国内避難民)が、国境域に集結し共同生活を行っている。しかも、この難民キャンプは、元来中国人が経営していたカジノであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の計画はおおむね次のとおりであった。 (1)中国雲南省の国境域における本調査:中国雲南省の瑞麗市及び畹町鎮において、ビルマ人居住者と中国人との協働・排除関係について調査する。具体的には、宗教組織・宗教実践、日常的生活実践、交易活動において、複数のエージェント(ビルマ人居住者と中国人住民)での協働関係と排除の関係を調査する。(2)ビルマの対中国交易拠点都市における本調査:上ビルマの対中国交易拠点都市(ラショー・ピンウールインなどの予定)において、中国国境域との往還移住者に対してインタビュー調査を行う。具体的調査地と調査対象は、平成23年度に雲南省で取得したデータを活用して策定する。(3)中国ビルマ国境域の変遷に関する口述史料の収集:今日の国境域における人口流動と比較するため、中華人民共和国成立前の雲南ビルマ国境域の状況を、聞き取り調査を基に整理する。中国雲南省・上ビルマ両方の調査地における長老を対象にインタビュー調査を行う。(4)研究成果の公開:調査結果は活動報告として、所属大学の専攻のホームページで一般公開すると同時に、学内の紀要等に投稿する。 ほぼこの通りに実行できている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の計画は次のとおりである。 (1)中国雲南省の国境域における本調査:平成24年度に引き続き、中国雲南省の瑞麗市において、ビルマ人居住者と中国人住民との協働・排除関係について調査する。この調査をもとに、当該地域における「国境域文化」と「国境域コミュニティ」の特質を明らかにする。現地協力者とともに、8月に20日程度の調査を予定している。(2)ビルマの対中国交易拠点都市における本調査:平成24年度に引き続き、上ビルマの対中国交易拠点都市において、中国国境域との往還しているビルマ人に対してインタビュー調査を行う。9月に15日程度の調査を予定している。(3)他の地域の国境域との比較分析:3年間の調査データを、他地域の国境域研究と比較する。中国ビルマ国境域の「国境域コミュニティ」の特色を明らかにすると同時に、「国境域文化」や「国境域コミュニティ」の特殊性が、ポスト国民国家期に有する意義について分析する。(4)研究成果の公開:3年間の研究成果を学会誌等に発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
おおむねフィールド調査の旅費として使用する。また、国境域研究に関する書籍の購入、学会発表における旅費などにも使用する。
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Research Products
(6 results)