2011 Fiscal Year Research-status Report
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23720428
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
福井 栄二郎 島根大学, 法文学部, 准教授 (10533284)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ケア / 文化人類学 / ヴァヌアツ / オセアニア / 高齢者 |
Research Abstract |
平成23年度は太平洋地域における、高齢者のあり方について考察した。 具体的にはアメリカ合衆国ハワイ州オアフ島・ハワイ島における日系移民、あるいは近年ハワイに移り住んだ日本人を対象に、「異国で高齢になること」についてのインタビュー調査を行った。これまで高齢者の不安というと、健康面と金銭面だけがクローズアップされてきた。しかし、海外に居を構えれば、それとは異なった不安が生じることが予想される。 今回の調査は、あくまでも予備調査であり、より精緻な調査、および理論的な考察は今後の課題となるが、言葉や医療・福祉の問題だけではなく、日本とのつながり、家族との関係など、移住者ならではの不安は、今回の聞き取りだけでも浮き彫りとなった。 また、ケア概念に関しては理論的考察を行い、『九州人類学会報』に「命名とケア」という論考を発表した。これは、ヴァヌアツにおいて、「命名」という行為の社会的な重要性を指摘したものである。つまり当該社会では、人が「一人前」となるには、きちんと「命名」されることが必須であり、それにより親族集団に帰属し、土地を得ることができるのである。 もしケアを「人の生を支える営み」と定義するならば、ヴァヌアツにおける「命名」は「ケア」そのものだといえる。これまで、医療・福祉・育児・介護などに限定されてきた「ケア」の概念を拡大し、より広範な理論的枠組みとして再定義したことは、非常に重要な意義をもつと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外調査は順調に行われている。また必要な文献もほぼ渉猟できている。 本務校における業務が多忙であったため、理論構築と論文執筆にまで十分な時間が割けなかった感は否めないが、今後はそちらにも重点を置いた研究を行っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度と同様、海外調査と文献研究を並行して行う予定であり、現段階で大きな変更は考えていない。論文や学会、研究会等で、収集したデータや考察した理論を発表することに重点を置く。 理論的考察としては、フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスの「他者」「ヴァルネラビリティ」といった概念を援用しつつ、「ケア」概念をより包括的に論じる予定である。 また、現在、同時並行で行われている「北欧ケア」の研究会のメンバーとも協同して、ケアの通文化的考察を深めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、助成額の未確定状態が長く続いたこと、および本務校での業務が多忙を極めたことにより、約23万円の残額が生じた。 これも踏まえ、平成24年度は、夏季に太平洋地域における現地調査を遂行して、当該社会における高齢者のあり方について知見を深めたい。現在予定している調査地として、ヴァヌアツ、ハワイ(米国)、パラオなどを考えている。 また国内での研究環境をより充実したものにするために、パソコン(および関連機器)と図書(オセアニア人類学関連、ケア関連、高齢者関連)を購入する予定である。
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Research Products
(3 results)