2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23720428
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
福井 栄二郎 島根大学, 法文学部, 准教授 (10533284)
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Keywords | ケア / ヴァヌアツ / オセアニア / 高齢者 / 贈与 |
Research Abstract |
現在の人文・社会科学において「ケア」が重要な概念となっている。わが国においても、超高齢社会に突入する社会情勢を反映して、社会学、看護学、哲学、社会福祉学などを中心に、ケアに関する研究が増加している。だがこれらの研究は「よいケアとは何だろうか」という点に問題の重心が置かれ、ともすると技術論に偏りがちであったことも否めない。そして、そもそもケアとはどのような行為なのかという、より根本的な問題は捨象されてきたのである。そこで本研究では、文化人類学的な視点から、ケア概念を彫琢することを目的としてきた。 方法論としては、通文化的研究を視野に入れ、日本と太平洋地域(ハワイ、ヴァヌアツ)においてフィールドワークを実施した(また補足的に北欧でのインタビューも実施した)。最終年度(H25年度)には、米国ハワイ州でインタビュー調査を行った。ハワイには日系移民の子孫だけでなく、結婚を機にハワイに渡った人が多くいるが、彼らが老齢を迎えるにあたり、日本への思いがどのように変化したのかを中心に聞き取った。彼らの多くは、残してきた家族(親戚)、土地、墓等への思いがあるのだが、他方、実際にはどうすることもできないという諦念も抱いている。ここで問題となるのは、彼らの思いやストレスをきちんとケアできる「文化装置」が存在しないということである。実際、彼らの多くは、この点に関して誰とも問題を共有せず、一人で抱え込むことが多い。この点については発展途上の研究なので、今後の発展を期待したい。 ヴァヌアツでの調査も含め、研究全体の成果として言えるのは次の点である。つまり、ケアとはただの「他者との相互行為」ではなく、他者の「人称性」「単独性」「かけがえのなさ」に介入しつつ、それらを保持するような行為であるということである。本研究では、今後のケアを考えるうえで、この人称性の問題は避けては通れないことを強く主張した。
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Research Products
(2 results)