2012 Fiscal Year Research-status Report
「生きづらさ」をめぐるネットワークに関する人類学的研究:病気の表現活動の事例から
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23720433
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Research Institution | Niigata University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
杉本 洋 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 講師 (20440472)
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Keywords | 生きづらさ / ネットワーク / 表現活動 |
Research Abstract |
本研究は、病気の経験を表現するという特徴的な実践を描き出し、そこで形成されるネットワークを考察するものである。当該年度(平成24年度)は、前年度に引き続きフィールドワークを継続して行った。特に、イベントである表現活動のみならず、イベントが形成される過程をみるために、関係者への会議等への参与観察、当事者グループとしての活動に加え、表現活動を行うグループのメンバーが行う個々人の実践へのフィールドワークの実施を行った。そして、単にいかなるネットワークが形成されているのかをみるのみではなく、形成される関係性はいかなる意義を有するのか、そこにはいかなる意識が根付いているのかを考察した。その結果、表現活動を行う人々がつくる関係性は「生きづらさ」という曖昧な基準の参集の元なされている活動であり、そこには差異や多様性が元々存在するものとして認識され、表現活動では、差異や多様性を能動的に表現していく実践が見受けられた。これにより、差異や多様性の存在によりつながりの形成が阻害されていた従来の当事者グループが抱える課題に対応していたことが見いだされた。また、表現活動のネットワークは生きづらい経験の共感により形成されていくが、そのネットワークの意義は、共感のみではなく、「傷つく場」として認識され、機能していた。当事者によるネットワークは一見一般社会とは異なるネットワークのように見受けられるが、かならずしもそうではなく、表現活動を行う当事者自身にとって一般社会と同一のものとして認識されている場合があることが明らかになった。以上の知見を本年度は、2回の学術集会(保健医療行動科学会、アートミーツケア学会)にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
継続したフィールドワークを行い、得られた知見が学術集会で発表するといった当初の計画に概ね合致している。今後は得られた知見の理論的検討を深めていくことが求められる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策 次年度は申請した研究期間の最終年度となる。継続したフィールドワークを行いつつ、研究の総括を進めていく予定である。具体的には、研究成果を論文として公表し、知見の総括として報告書を作成する。その際に考察を深めるべき観点は理論的知見と考えている。本研究は、病気の経験をステージ上のパフォーマンスで表現するという特徴的な実践を検討しているものであるが、こうした実践の中でつくられるネットワークや生きづらい中を生きていく知識は、特徴的な一事例としての提示できるものではない。従来行われてきた様々な当事者による実践、たとえばセルフヘルプ・グループや障害者運動、当事者による芸術活動において検討されてきた人類学的知見に新たな理論的新規性を付与することが求められる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
理論的知見を深めていく必要性から、各種文献、データ管理を行うための備品(コンピューター端末など)の購入を行う予定である。また、フィールドワークや学会発表における旅費、得られた音声データなどをテキストにしていくための費用を執行する予定である。また、論文発表や報告書の作成における、印刷費、英文校正費等を執行する予定である。
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