2011 Fiscal Year Research-status Report
学術資料/文化遺産の所有とその活用についてのアラスカ先住民との共同実践研究
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23720436
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Research Institution | St.Margaret's Junior College |
Principal Investigator |
久保田 亮 立教女学院短期大学, その他部局等, 講師 (80466515)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 文化人類学 / 先住民 / 文化遺産 / 学術資料 / 恊働 |
Research Abstract |
本研究は、「調査する側」と「調査される側」の双方が「研究資料/文化遺産」を活用できる体制を構築することを目的としている。本年度は、1)本研究が対象とする研究資料である、アラスカ先住民諸村落で収集された民俗音楽資料の状態や録音内容を確認する調査の実施、2)所有および知的財産についての人文社会系研究ならびにアラスカ州をフィールドとする人類学的研究の渉猟、3)資料の保管先である北海道立北方民族博物館関係者、日本国内のアラスカ先住民研究者、当該の研究資料の収集が実施された先住民村落住民と、本研究について議論を行なった。以上の作業に基づく成果は大きく分けて以下の3点である。 (1)対象となるアラスカ先住民民俗音楽資料は音声劣化や物理的破損は現時点ではないことがわかった。また本研究が対象とする音声資料の他に、映像資料、写真、資料収集者が調査時に記録したメモ等も存在する事が明らかになった。また記録内容はアラスカ先住民芸能それ自体のみではなく、芸能伝承者の生活史の聞取記録や収集者と伝承者との雑談等も含まれていることがわかった。以上の点から、本研究の対象たる音声資料は先住民芸能についての資料価値のみならず、歴史的価値も併せ持っていることが確認できた。(2)先行研究の渉猟および検討を通して、知的財産制度に基づき伝統芸能をはじめとする「伝統知」を保護する施策には限界ならびに弊害が指摘されているが、その一方で先住民自身が「伝統知」を「知的財産」概念に重ね合わせつつ、伝統文化の主権者としての地位保障を求めていることなどが、報告されている事がわかった。(3)本研究に関わりのある人物とコンタクトし、研究体制の確立を進めた。課題として上記に挙げた人びとに加え、アメリカ国内のアーカイビストや当該地域の研究者とのより密接な連携が必要であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・対象となる調査資料の保存状態を確認することが出来たとともに、その具体的な内容について把握する事が出来たため。また音声資料以外の研究資料が存在する事が明らかになったことで、当該資料がどのような目的、いかなる状況で収集されたのかがわかったため。この結果、射程とすべき資料が増加した事は事実だが、資料検分作業はおおむね予定通りに進んでいる。・知的財産と伝統知に関する諸研究を渉猟し、大まかにそれらを射程とする研究の論点を把握することが出来たため。今後も先行研究の渉猟作業は継続し、より綿密な分析を行なう必要があるが、次年度以降の課題として取り組んでいく。・本研究の対象である調査資料に関わる人びととの恊働作業のための基礎作りができたため。ただしアメリカ国内で先住民文化資料を扱うアーカイビストや、資料収集が実施されたコミュニティの住民はもちろんそのコミュニティを対象に調査を実施した経験のある人物との恊働作業も視野に入れ、研究体制をさらに発展させることは、次年度以降の課題である。・2011年8月にアラスカ先住民ダンスグループが「はこだて国際民俗芸術祭」に来日する予定だったが、諸般の事情により来日しなかった。そのため祭の実態調査も出来なかった。ただし同ダンスグループは2012年の同祭に参加を予定しているため、調査は2012年に実施することとしている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、計画を一部変更する必要があるものの、今後も交付申請書に記載した計画にそって実施する。計画に変更があった部分、変更の理由、およびその対応策については後述する。 2012年度は本研究の対象である調査資料の整理と精査、先行研究の渉猟、国内外の関係者との連携体制のさらなる確立、調査対象村落における予備的調査を実施するのに加えて、2011年度に実施することが出来なかった、アラスカ先住民ダンスグループの日本での活動についてのフィールドワークを実施する。2013年度は、文献調査、アラスカ先住民村落での実態調査を本格的に実施する。最終年である2014年度には研究成果を国内外で発表するとともに、本研究の研究資料の利用についてのガイドラインを提示する。 ここで調査計画の変更点(ないし次年度に使用する予定の研究費が生じた状況)について記す。本研究の交付申請書には、2011年8月に北海道函館市にて実態調査を行なう事が記載されてある。同市で毎年開催されている「はこだて国際民俗芸術祭」にアラスカ先住民ダンスグループが参加することになっており、彼らの「文化遺産」である民族芸能についての語りを収集することなどを行なう予定だった。しかしグループメンバーの一人の健康状態が思わしくなく、同グループは2011年の祭りへの参加を取りやめ、翌年の祭に参加することとなった。そのため実態調査を2011年度に実施する事も取りやめ、2012年度に上記に関する調査を改めて実施することとした。なおこの変更は研究計画全体を大幅に見直す必要が生じる変更ではないことを付記しておく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度の研究費は、交付申請書に記載した計画にそって使用する。 2012年度の活動計画としては、(1)アラスカ先住民音声資料の整理と精査(資料整理および資料収集者の研究をよく知る人物への聞取調査)、(2)知的財産と伝統知についての先行研究の渉猟、(3)国内外の関係者との連携体制の拡充および強化、(4)アラスカ先住民村落における2週間の予備調査、(5)はこだて国際民俗芸術祭でのフィールドワークがある。 (1)~(4)については2012年度交付分の研究費を利用する。物品費(100,000円)については、(1)および(2)を実施するための機材購入費や資料購入費などに利用する計画である。旅費(500,000円)については、(1)および(4)を実施するために利用する計画である。人件費・謝金(100,000円)については、(4)を実施する際に利用する計画である。その他(100,000円)については、研究資料の郵送費、資料の複写費、通信費などに利用する計画である。また(5)については2011年度交付分の研究費を利用する計画である。
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