2011 Fiscal Year Research-status Report
伝承技術の歴史・民俗学的研究―採石技術の究明と記録保存―
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23720437
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
松田 睦彦 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 助教 (40554415)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 石 / 伝承技術 / 職人 |
Research Abstract |
当該年度に実施した研究のおもな成果は二つある。第一に、花崗岩採石に用いられた採石用具の記録と、その使用法に関する聞き取り調査である。本研究では、岡山県笠岡市北木島の元採石業者の元に残されている採石用具約150点について、考古学研究者の協力を得ながら、実測調査を行なうと同時に、それを使用していた元採石業者自身から使用法についての聞き取り調査を行なった。この調査は、考古学研究者との共働で行なわれたところにその特徴がある。民俗学を専門とする研究代表者だけでは気づかない、採石用具に施された微細な工夫や使用痕についての知見を考古学研究者から得られたと同時に、聞き取り調査という民俗学的手法によって、考古遺物からは明らかにすることができない採石用具の具体的な使用法や、使用のための身体的技術についての情報を、考古学研究者と共有することができた。第二点目は、採石丁場遺跡における調査である。香川県小豆郡の小豆島に、大坂城再建時の石垣用の石材が採掘された跡が残されていることは周知のとおりである。本研究では、岩谷丁場遺跡について、考古学研究者および現役の採石業者とともに、近世初期当時の採石技術および労働体制についての調査を行なった。本調査の特徴は、現役の採石業者の協力を得て、遺跡の検証を行なったところにある。調査の結果、岩谷丁場遺跡の矢穴(矢と呼ばれる楔を打ち込んで石を割るための穴)には、少数の技術的に高いものと、多数の技術的に低いものが確認された。また、過剰なまでに大きな矢穴が間隔を詰めてあけられていることも確認された。その結果、大量の石材を短期間に切り出さなければならない状況において、少数の熟練労働者のもとに多数の非熟練労働者が組織されていたという当時の労働体制を推測するにいたった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は1.石材採掘作業の全体的作業工程の把握、2.採石用具の実測調査および使用法に関する聞き取り調査、3.花崗岩以外の岩石の採石技術に関する調査を計画していた。1.については、採石業者への聞き取り調査により達成している。2.については、当初は愛媛県今治市宮窪町で行なう予定であったが、岡山県笠岡市北木島での調査に変更した。その理由は、北木島の資料が資料群としてのまとまりが良く、また、時代的にも古く希少なものであったからである。さらに、それを使用していた所有者が高齢ながら存命であり、現在であれば聞き取り調査も可能であるということも理由として挙げられる。宮窪町における調査については、年度を改めて行ないたい。3.については、神奈川県小田原市真鶴町の安山岩について調査を行なった。ただ、静岡県熱海市や千葉県富津市の凝灰岩については未調査であり、今後の課題として残された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の柱となるのは、採石技術に関する映像記録の制作である。愛媛県今治市宮窪町の採石業者の協力を得て、平成24年度に撮影を行なう予定である。撮影の内容は、石材採掘技術の記録と、鍛冶技術の記録を予定している。石材採掘技術の記録は、ジェットバーナーや重機、さく岩機などを用いた現代的な技術と、ノミとセットウやゲンノウを用いて穴をあけ、ヤで石を割る伝統的な技術の双方についての撮影を行ない、比較検討を行いたい。また、鍛冶技術は、石と直接接触するノミやヤの摩耗や欠損を修復するための、採石業者には欠かせない技術であった。この鍛冶技術を伝承する採石業者に依頼して撮影を行なう。このほか、今後の研究において重要となるのは、さらなる採石用具の資料調査と、採石技術や、採石に伴う信仰や生活文化に関する聞き取り調査である。とくに、当該年度に行なうことのできなかった愛媛県今治市宮窪町の採石用具に関する調査について、積極的に進めたい。さらに、花崗岩以外の岩石の採掘技術についての調査も凝灰岩や安山岩を中心に行ないたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の調査研究は採石技術に関する映像記録の制作が中心となる。映像の制作にかかわる直接的な費用については、研究代表者の所属機関である国立歴史民俗博物館の共同研究「民俗研究映像の制作と研究資源化に関する研究」の手当てを受けられることとなった。したがって、本科研の研究費については、採石用具の資料調査および採石技術や文化に関する聞き取り調査、花崗岩以外の岩石の採掘技術に関する調査にあてたい。また、映像記録の撮影時には、考古学や歴史学の研究者の立会いを得て、採石技術の歴史的変遷や、採石用具製作に伴う鍛冶技術の特徴等についての意見交換を行ないたいと考えている。したがって、昨年度の未使用額および次年度の研究費の多くは旅費に充当させていただきたい。その他、関連書籍や調査に必要な機材の購入のために、物品費の使用を予定している。
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Research Products
(1 results)