2012 Fiscal Year Research-status Report
フランス社会における「用益権」の存在態様――比較財産管理論の構築へ向けて
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23730002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齋藤 哲志 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (50401013)
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Keywords | フランス法 / 用益権 / 財産管理 / 家族財産法 / 人役 / 分肢 / 生前贈与 |
Research Abstract |
《目標I:用益権に対する態度の史的変遷の解明》については、既得の知見を革命期及び民法典制定時の言説に関連付けることができた。用益権の定義には社会情勢を反映した対抗が見出される。すなわち、一方に、用益権を地役と並ぶ人役(servitude personnelle)とする理解(ローマ法に由来)、他方に、それを所有権の分肢(demembrement)とする理解(慣習法学に由来)があった。民法典は、隷従を想起させる人役の語を忌避しつつ、分割所有権の再来を危惧して分肢論をも否定する。しかし、後代において後者の理解が通説化する。その所以を理論的に把握することが次年度の課題となるが、用益権の終身性(用益権者死亡による消滅の強行性)が鍵を握る。死因承継を否定できさえすれば、相続を前提とする「制度としての」分割所有権を再現させることはない。 《目標II:用益権の利用実態の実証分析》に関しては、フランスでの調査を行うとともに、実務書の網羅的検討を実施した。一点のみ特記すれば、上述の用益権の終身性について、これを潜脱するかのような利用実態が明らかにされた。財産承継を目論む所有権者は、通例生前贈与を用いて一度に複数の用益権を設定することができる(継起用益権(usufruits successifs))。2番以降の用益権は、前の用益権(通常1番用益権は元の所有権者が留保する)が消滅した時点で効力を生ずる(用益権の転換(reversion))。この操作は、所有権者自身による使用収益と生存配偶者の生活保障とを実現し、卑属への財産移転をも確実にする。節税効果もあり慣用化されている。 以上の2点は、日仏法学会での報告に反映された。なお、フランス出張中に家族財産法に関する2件の講演を行った。これらは《目標III:比較財産管理論の構築》の達成に資するものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中間年度に相応しく、研究の進展が新たな問いを生み出す状況にある。《目標I》に関しては、古法時代の学説と民法典の規定とを対抗的に接続することができた。依然として明確には言語化し得ていない19世紀における用益権の利用実態の解明にも資するであろう。具体的には、用益権の終身性が公序にまで高められたのは、何時・如何なる理由に因ったのか、が明らかにされるべきであり、公証人実務の展開との間に相関を探る必要がある。 《目標II》についても複数の成果が得られている。継起用益権については上述の通りであるが、消費物上に設定される準用益権(quasi-usufruit)をめぐる判例学説をも検討対象とした。用益権者による処分を許容し、一時的にせよ所有権に変わる準用益権は、用益権を所有権の分肢とする通説的見解に疑問を投げかける。学会報告では、この問題を利用実態に関連付けながら理論的に整理した。 本年度に本格的に着手された《目標III》に関しては、フランスでの講演の機会に複数の研究者と意見交換を行い、聞き取り調査の成果とも綜合することで以下の理解に達した。用益権と虚有権(用益権が分肢された後の所有権)は、実際上はいずれもが「所有権」であり、前者は「現在の使用収益」を対象とし、後者は「将来の使用収益」を対象とする(cf. W. Dross, Droit civil, Les choses, 2012)(なお、分割所有権との対抗を意識するならば、終身性は二つの権利の異時的並存を許容するための条件となる)。たしかに、所有権の二重性を帰結する点で、用益権スキームは信託に類似する。しかし、用益権者は目的による拘束を受けず、受益者に類比され得る虚有権者は用益権者の使用収益を掣肘できない。財産管理機能は、用益権それ自体が内包しない要素(家族構成員間の良好な関係性、又は合意)に依存する、との仮説が得られる。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの達成度】の「理由」欄に記したように、新たな課題に邂逅した。残された研究期間を考慮しつつ、如何に取り組むべきか。本研究とは異なるが密接に関連する主題について、平成25年9月にフランスでの学会報告を予定している。この機会を利用して、とりわけ《目標III》に関する仮説を検証したい。外国旅費を用いて滞在期間を延長し、これまでに培われたネットワークを利用して複数の研究者及び実務家との意見交換の場を設ける。さらに《目標I》の欠缺を補う資料へのアクセスも期待される。 他方、当初の想定通り、法制度のみでは汲み尽くされない家族に関する「非法」的事象の重要性を認識するに至った。文献購入や国内研究者との意見交換を通じて、家族社会学や家族史研究にも視野を広げる。残余期間は短く、また、代表者にとって新たな領域であるため、萌芽的たらざるを得ないことが予想されるが、現所属機関(平成25年4月に変更)にはこの分野の専門家が複数在籍しており、方法上の問題についても示唆を得ることができよう。もっとも、既得成果の公表も予定されており、対象の拡大は仕上げを妨げる恐れがある。遅れを防ぐため、資料整理等を目的としてアルバイトを雇用する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ほぼ当初の予定通り使用したが、発注済みのフランス法関連書籍が品切れであったため、多少の残余が生じている。新たに関連書籍を探した上で支払いに充てることとする。
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