2011 Fiscal Year Research-status Report
米国<不法行為改革>の展開と背景――現代アメリカ私法史に向けて
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23730003
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
会澤 恒 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (70322782)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アメリカ法 / 不法行為改革 / 法形成過程 / 連邦制 / 抑止 / 損失填補 / 法学方法論 / 保守政治 |
Research Abstract |
〈不法行為改革〉においては、アメリカ合衆国の憲法体制上の特徴のもたらす議論のフォーラムの複数性・並立性が、推進派・反対派双方のアクターに、自らに有利な場を求めて戦略的にフォーラムをスイッチしていく余地を与えている。推進派が州議会で〈改革〉立法を成立させると、反対派はこれを州裁判所で州憲法違反とすることに一定の成功を収めた。これに対し推進派は憲法修正を追求し、あるいは選挙を通じて自らの主張を支持する者を裁判官の地位に据えようと行動している。このように、近時の州レベルの動向では、〈法〉が政治に従属したシステムとなってしまっている面も強い。〈法〉の拡散とも言えるかかる現象をより精確に理解するためには、州立法部と司法部との対抗関係をあえてその法教義学的側面に乗って把握することが逆説的に有用であるとも考えられた。 他方、1990年代以降の動向でより顕著なのは、連邦法上の論点を作出するという訴訟戦術を通じて、連邦司法部が元来州法である不法行為法の領域に介入する範囲が拡大しつつあることである。州レベルに比して〈政治〉化の契機は抑制される一方で(伏在はしている)、不法行為法は本来連邦法の領域ではないことから、その内実は断片化しており、また連邦法の介入する範囲に歯止めをかける法理は未だ見出されていない。 アカデミックには、複数の法形成フォーラムの並立状況における適切なフォーラムはどこか、という制度間選択をめぐる政策問題として問いが定式化される。その前提として、近時の議論が事故の最適抑止の観点を軸としていることについては確認できた。だが、〈改革〉運動が批判の対象とした民事責任の拡大の際の動機としては(抑止ではなく)損失填補の契機によって説明する必要がある側面がある。かかる不法行為法の理念の変遷を正確に理解するためには、先行する時代へと検討対象の視野を広げる必要性も認識された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 〈不法行為改革〉運動の主要なアクターおよびフォーラムと、その相互作用における法律問題・政策問題について基本的な対抗軸については成果1として発表した。これにより、問題状況の全体的な枠組について示すことができた。今後の作業としてはその内容をより具体的に肉付けていくことになる。州レベルの動向に対する連邦レベルからの制約という局面については既に一定の厚みを以て明らかにしている(一部については今年度学会報告予定)。2. 米国の「法学研究」と法(形成)過程との連関について素描する論考を公刊し、後者が前者に対して刻印する特徴について論じた(成果5)。以て「政策提言としての法学説」という本研究の主張の土台を固めた。また、同論考は「法学」と「実務」の関連に関する比較法・法制史研究の特集の一部であり、他の関連論考との対比により現代アメリカ法の特徴についても理解が深まった。3. ヨーロッパにおいて、EUレベルの民事法の形成が新たな形態をとって進行しつつあること包括的に整理・分析する代表的な論考を邦訳した(成果2)。当初の計画においてはEU法とアメリカ法との比較は2012年度に予定していたが、先取り的にこの作業を行った。これにより、米国法の分析において着目すべき点が先行的に明確となった。4. これまでの知見の骨子を法曹を主たる読者とする雑誌にて公刊した(成果3)。また、日本弁護士連合会のシンポジウムでパネリストして登壇し、民事訴訟・民事責任法の改革提言へ貢献した(成果6)。以て社会発信・実務へのフィードバックという契機についても着実に貢献している。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 前年度に引き続いて法変動をめぐる、現地調査を含めた資料収集、インタビュー調査および分析を継続する。これは実定法制度史からの検討の継続であると同時に、政治史の視角からの検討に軸足を置く。その際には、裁判例もまた関係アクターによる法形成に向けた訴訟戦略の結果であることに留意し、単に当事者が誰であるかのみならず、当事者の代理人や法廷助言者として訴訟に関与する事例に着目する。具体的には海外渡航の上、現地調査を実施し、シンクタンクや利益団体等が活動するに際し、(1)フォーラムの選択、(2)立法過程への関与戦略の目的・過程、(3)広報戦略について重点的に究明する。これにより、広義の政治過程において不法行為法を初めとする民事法がどのように取り扱われて来たかを明らかにする。2. このようにして得られた知見を基礎に分析を加え、現代型保守の構造の解明に当たる。すなわち、〈不法行為改革〉運動の基点であり、現地調査での重点的な対象でもあるのはビジネス保守の流れに属するアクターであるが、これが社会的保守・草の根ポピュリズムの動きとどのように呼応しあるいはそれらを動員していったのか、また州権を重視する政治思想との緊張関係をどのように調整していったのかを浮き彫りにする。3. 本研究はEU法の状況との比較の観点を取り入れることにより多角的な検討を試み、これにより〈多層的な憲法体制の下での法形成フォーラムの切り替え〉という分析枠組における、米国の状況の独自性と普遍性を浮かび上がらせようとしている。EU法の近時の動向の大枠については前年度に先行的に作業を開始しており、本年度はより詳細な比較分析の作業に入る。これについてはフランス法を専門とする本学の齋藤哲志准教授と年度後半に大学院共同授業の形で相互に知見を交換する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現時点では公刊されていない情報について補完するため、渡米の上、一連のプロセスに関与しているシンクタンク・業界団体等を訪問しての内部資料の閲覧および関係者へのインタビューによる調査を実施することとなっているが、平成23年度は諸事情により訪問予定先との日程調整ができず、予定していた海外調査をキャンセルして国内研究者との意見公開のための国内出張に振り替えた。この経験を踏まえて計画的に出張予定を組むことにより平成24年度は対応可能である。さしあたり、6月にサンフランシスコでの調査を予定している。
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Research Products
(7 results)