2012 Fiscal Year Research-status Report
米国<不法行為改革>の展開と背景――現代アメリカ私法史に向けて
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23730003
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
会澤 恒 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (70322782)
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Keywords | 不法行為改革 / 法の実証分析 / 非良心性 / 連邦仲裁法 / 専占 |
Research Abstract |
1. 本年度の重要な進展として、米国〈不法行為改革〉の実態に関する実証研究に関する理解を深めたことがある。具体的には、この分野の第一人者であるTheodore Eisenberg教授(コーネル大学)と個人的に意見交換する機会を得、〈改革〉の標的となった不法行為法の危機の存在自体が明白ではないことが確認されるとともに、それに対する〈改革〉の効果が曖昧であることも指摘された。(なお、その成果として同教授の論考の翻訳を北大法学論集64巻3号に掲載予定。)このことは〈改革〉の動機が党派政治的なものであることを示唆する。しかし、それだけでは〈改革〉推進者の主張がなぜ、政治的のみならず法的ディスコースとして成功したかを説明できず、この点の課題が析出された。他方、非党派的な実証研究の現実の政策論としての限界もまた示されており、これが実効性を持つための条件も検討すべき事項として認識した。 2. 本研究の他の法分野の状況との比較という観点から、本年度は契約法分野での動向についても検討を加えた。連邦仲裁法による州契約法の専占の問題を主たる素材とした。近時、産業界が消費者契約や労働契約の約款に仲裁条項を挿入する実務を採用しているが、これに対し州裁判所は州契約法上の非良心性の法理等により規制を加えようとしてきた。しかし、契約一般に適用されるルールによるのでない限り仲裁条項は強制されなければならないとの連邦仲裁法の規定の下、連邦裁判所は、州裁判所による介入を、仲裁特定的なものと評価することによって排除するようになった。連邦法に依拠することによって州法による消費者保護を排除するという、不法行為法分野との並行的な状況が出現していることを指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 〈不法行為改革〉の具体的なインパクトについての理解を確立した。その主要な領域において〈改革〉が米国社会に与えた影響について、実証的な把握を整理した。この点については、法の実証研究の第一人者であるTheodore Eisenberg教授の論考の翻訳を北大法学論集64巻3号に掲載予定である。他方この作業を通じて、実態に基づく政策論の限界が認識されたことから、その理由を探ること、党派政治的な言説が法理論として定式化される条件を探ること、という米国の「法学研究」と法(形成)過程との連関についての検討課題も認識された。 2. 他の(民事)法分野との比較という観点につき、州契約法に対する連邦法への介入の事例について公表した。不法行為法分野とパラレルな動向と力学が確認された。他方、不法行為法分野に固有の要因は何か、という問いが浮かび上がることとなった。 3. 〈多層的な憲法体制の下での法形成フォーラムの切り替え〉という分析枠組に関して多角的な検討を加えるためのEU法の状況との比較につき、フランス法を専門とする齋藤哲志准教授(H.25年3月まで本学)と法科大学院共同授業の形で相互に知見を交換する機会を持ち、状況の異同について理解を深めた。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 最終年度である本年度はこれまでの知見の総合が課題である。実定法制度(変動)史を、一方で価値を巡る観念の変動と、他方で現実政治の展開と関連づけつつ描写する。その際には、党派的政治のレベルの主張と、学術的な政策論、および法的言説との相互作用、すなわちそれぞれの呼応関係と、議論の別のレベルに移った際の定式化のされ方・変容に着目する。その上でこの言説の展開を、立法部-執行部-司法部と連邦-州という、二重に分節された米国の統治機構における法形成過程に布置し、〈多層的な憲法体制の下での法形成フォーラムの切り替え〉という当初の見通しに対して具体的な形を与え、以て現代アメリカ法の特性についての知見を得る。 2. 他方、前年度に引き続き、現代型保守の構造の解明に当たる。すなわち、〈不法行為改革〉運動の基点であり、現地調査での重点的な対象でもあるのはビジネス保守の流れに属するアクターであるが、これが社会的保守・草の根ポピュリズムの動きとどのように呼応しあるいはそれらを動員していったのか、また州権を重視する政治思想との緊張関係をどのように調整していったのかを浮き彫りにする。 3. 以上の作業を通じて得られた知見を北海道大学法理論研究会、同民事法研究会、北海道アメリカ研究会、東京大学英米法研究会、早稲田大学アメリカ法判例研究会等において報告し、批判に晒した上で、公刊する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ほぼ当初の予定通り使用したが、発注済みの洋書の入荷が遅れたため、多少の残余が生じている。当該書籍が入荷次第、これの支払いに充てる予定である。
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Research Products
(2 results)