2011 Fiscal Year Research-status Report
大正期の司法官・裁判職員の実体的研究(『官員録・職員録』のデータ化とその分析)
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23730004
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
田中 亜紀子 三重大学, 人文学部, 准教授 (90437096)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 司法制度 / 日本法制史 / 近代日本の法曹 |
Research Abstract |
本研究は、「大正・昭和戦前期民事訴訟の実態的研究(司法統計のデータ化とその分析)」(基盤研究(C)、平成19・20年度)における分担テーマであった、司法データを用いた対象時期における裁判所の設置数や司法職員の配置数と事件処理の関係などの分析を発展させたものであり、その具体的内容は、大正期の『官員録・職員録集成』に収録されている、司法省ならびに裁判所職員のデータベースの完成・分析、そして大正期における法曹に関する資料を収集・分析を通じて、大正期における法曹(データベースの関係から特に裁判官および検察官)の動態を明らかにすることである。 近代日本の司法制度に関する研究としては、明治期から昭和戦前期まで拡大している一方で、従来の研究が制度の成立過程などに重点が置かれているため、司法官および裁判所職員の実態に関する研究については、今なお十分には行われていないという状況にある。また、研究代表者は、「明治前期司法官資料に関する一考察―『明治期 官員録・職員録』一八七一~一八八六年の司法省・裁判所名簿資料整理を通じて」(2004年、『阪大法学』第53巻第5号・6号)という研究成果を有しており、公表当時、司法官の実態に関心を有する法制史および近代日本史研究者、法社会学研究者より好評を得たが、上記研究はデータ入力作業に多大な時間と労力を費やすことから、その後の時代については未着手のまま現在に至っている。このような学術的背景において、本研究は上記司法官資料に関する研究を大正期へと発展させたものであり、本研究における研究成果は、近代日本の司法制度の担い手の実態解明に貢献する意義を有するものである。 そして実施一年目である23年度は、『官員録・職員録集成 105巻~121巻(大正)』に収録されている司法省ならびに裁判所職員のデータ入力と、京都弁護士会が所蔵する戦前期資料の収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間の一年目である平成23年度は、『官員録・職員録集成 105巻~121巻(大正)』に収録されている、大正期15年分の司法省ならびに裁判所職員のデータ入力と、京都弁護士会が所蔵する戦前期資料の収集を行った。 前者について、具体的には、研究費が交付された後、データ入力のアルバイトを依頼する前の段階で、対象資料の複写を行うとともに、入力のモデルとして大正2年のデータ入力を研究代表者が予め行うことで、作業従事者の混乱を最小限に抑える工夫を行った。また、当初はデータ入力者として2名程度を想定していたが、作業状況を確認し、平成23年度内に入力作業を終了させるべく、4名に増員した。その結果、入力作業自体は2月までに終了させることができ、入力済みデータと原本との確認作業ならびに表などの整形作業を残すのみとなった。 後者に関しては、そもそも近代日本の司法制度の担い手の実態解明を行う上では、上記データベースを作成・分析するだけではなく、研究対象とする時期の司法ならびに法曹に関する制度を理解することや、担い手に関する資料を収集・分析することが必要である。大正期においては、民事訴訟件数が著しく増加する一方で、「裁判官淘汰」という文言に見られるように、国家財政との関係で特に裁判官の抑制が行われたことが指摘されている。裁判官を辞した人々のその後に関しては在野法曹である弁護士への転身が考えられ、実際に大都市においては元裁判官の弁護士が増加したという記事も確認しているが、その実態については明らかになっていない。そこで、近代日本における法曹に関する研究者とともに京都弁護士会に赴き、同弁護士会の協力を得て、戦前期に関する資料の収集を行った。これらの資料から得られた知見を、データベース分析に用いる予定である。 以上、現在の段階においては、研究はおおむね順調に進展しているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目であり、最終年度となる平成24年度においては、平成23年度に得られた結果に基づき、まず、データ作業に関しては、前年度において入力したデータの確認および整理作業を行う予定である。この作業は当初は平成24年度の前半期に行う予定でいたが、研究代表者が4月より半年間、産前・産後休暇ならびに育児休暇を取得するため、後半期に行う。なお、この半年間の遅れについては、既に学内研究支援チームに申告済みであり、状況によっては、「産前産後の休暇又は育児休業の取得に伴う期間延長」を利用することを検討している。 その後、資料の打ち出しおよび表などの整形作業を行い、以上の作業によって得られたデータおよび調査によって得られた資料の分析を行い、大正期の司法官および裁判職員について得られた結果を取りまとめて成果の発表を行う。分析に際しては、「大正期の司法官・裁判所職員の異動状況」「大正期に行われた人員削減の対象者」の2点を中心に行うとともに、対象期において法曹を取り巻く状況に関する報道や法曹自身の認識、そして一例として京都弁護士会に所属した元裁判官等を視野に入れることによって、大正期の法曹の実態を示す。 また、研究成果の公開作業については、研究代表者の過去の研究成果である「明治前期司法官資料に関する一考察 ―『明治期 官員録・職員録』一八七一~一八八六年の司法省・裁判所名簿資料整理を通じて」(2004年、『阪大法学』第53巻第5号・6号)を参考として、活字化を行うとともに、当該研究成果が膨大なデータとなるという性質を考慮し、当該領域に関心を有する研究者の使用に供することができる様な形のデータベース化を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使用計画について、金額の大きなものから述べる。 第一にデータの確認および整理作業に関してはアルバイトを雇用することを予定しているため、次年度研究費の40%は「謝金等」に充てられる。この「謝金」は、研究を可能な限り迅速に進める上で必要であると考える。 第二に、研究の1年目において既にある程度の資料は入手しているが、データベースの分析等に際して新たな資料が必要になること、または資料の確認をする必要が生じることが想定されるため、研究費の30%から40%は、大阪あるいは東京への調査研究旅費(「国内旅費」)ならびに複写費(「その他」)に充てられる。 また、第三として、第二と同様の趣旨で、近代日本の司法制度に関する新たな研究成果が公開されたり、資料が公刊されることが考えられることから、司法制度および法曹関係図書および古書を入手するため、研究費の20%前後は「設備備品等」あるいは「消耗品等」に充てることを計画している。 以上が次年度の研究費の使用計画である。
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