2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730006
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
見平 典 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 講師 (90378513)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 違憲審査制 / 司法積極主義/司法消極主義 / 最高裁判所 / 基礎法学 / 公法学 / 司法政治 |
Research Abstract |
日本の最高裁判所は違憲審査制を長年消極的に運用してきたが、アメリカ連邦最高裁判所は、20世紀中期以降、この制度を積極的に運用するに至った。もっとも、積極的な違憲審査は、民主的正当性を有する政治部門によって定立された法令を否定するものとして民主主義原理と緊張関係に立つこと、また、それは政治部門による敵対的な行動を誘発するおそれがあることから、裁判所にとっては本来、規範的な面から見ても、政治力学の面から見ても、違憲審査制を積極的に運用することの方が消極的に運用することよりも難しいといえる。それでは、アメリカ連邦最高裁判所は20世紀中期以降、いかにして違憲審査制を積極的に運用することが可能になったのであろうか。平成23年度においては、この問いをテーマにした著書を刊行することを目標として、必要な研究を行った。具体的には、収録予定の既発表の論考に再検討を加え、加筆修正して精緻化する作業を行うとともに、以下の研究に取り組んだ。1.20世紀後期におけるアメリカ連邦最高裁判所の違憲審査制の運用を分析することの理論的意義を、日米の関連する先行研究の整理を通して明確にする作業を行った。2.違憲審査制の運用の規定要因について、以前の論考にて仮説的に提示した理論枠組みの精緻化を進めた。3.20世紀後期におけるアメリカ連邦最高裁判所の積極化の背景的要因として、研究代表者はこれまでに規範的資源・政治的資源の獲得・蓄積という要因に着目して分析を行っていたが、実務的資源の拡充、および裁判官選任手続の変化という要因についても新たに考察を行った。4.日本の最高裁判所による違憲審査制の運用を活性化するための方策を、上記2の理論枠組みに照らして考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、裁判所による違憲審査制の運用について、「変化」に着目した動態的分析を行うこと、さらに、そうした事例分析の蓄積を通して、違憲審査制の運用に関する経験的な理論枠組みを構築することを目的としているが、現在までに、20世紀中・後期にアメリカ連邦最高裁判所が違憲審査制の運用を変化させた背景と過程について、著書を刊行することができた。また、著書刊行の過程で、違憲審査制の運用の規定要因について、理論枠組みを精緻化することもできた。このように、裁判所による違憲審査制の運用について、動態的な事例分析の蓄積と、体系的な理論枠組みの構築を着実に進めており、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、裁判所による違憲審査制の運用について、「変化」に着目した動態的な事例分析をさらに蓄積する。そのために、20世紀中・後期以外の時期区分(20世紀末から現在まで、および19世紀末から20世紀初頭まで)における、アメリカ連邦最高裁判所による違憲審査制の運用についても、研究を進める。分析にあたっては、一次資料の他、法社会学、憲法学、政治学、法史学の関連文献(憲法政治関連図書)を幅広く検討する。また、アメリカ連邦最高裁判所の憲法判例の研究会にも参加し、同裁判所の近年の判決行動について情報収集に努めたい。 また、日本の最高裁判所による違憲審査制の運用についても、「変化」に着目した分析を実施する。分析にあたっては、一次資料や憲法政治関連図書の質的分析に加え、アメリカ司法政治学の司法行動論等の手法を参照しつつ量的な分析も行いたい。そのために、分析の基礎となる、最高裁判所裁判官の判決行動データの収集・整理を進めていきたい。 第2に、違憲審査制の運用の変動や裁判所による違いを体系的に説明できる理論枠組みを構築する。既に23年度において、以前に仮説的に提示した理論枠組みの精緻化を進めたが、今後上記事例分析を蓄積する過程で、この枠組みをさらに検証し洗練していきたい。なお、その際、法社会学等の学会・研究会において研究報告を行い、多様な研究者から批判を仰ぐようにしたい。また、それら成果を踏まえて、わが国において違憲審査制を活性化していくための方策についても考察を深めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の助成金があるが、これは、平成23年度には20世紀中・後期のアメリカ憲法政治の分析に注力した結果、図書購入はそれに関連するものが中心となり、それ以外の図書の購入については、基本的に次年度以降となったためである。また、後述の統計ソフトウェアを、当初考えていたように一度にまとめて購入するのではなく、データの収集や分析手法の修得の進展に応じて、随時購入することの方が望ましいと判断したためである。 次年度には、前記研究推進方策に従い、日米の憲法政治関連図書を購入する。また、分析の視点や手法を獲得するために、両国以外の憲法政治を分析した図書も購入する。さらに、日本の最高裁判所による違憲審査制の運用について量的な分析を行うため、必要な統計ソフトウェアおよび統計分析関連図書を購入する。 また、関連する学会および研究会に参加して研究報告や情報収集を行うため、それに必要な旅費を支出する。
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