2012 Fiscal Year Research-status Report
法概念論のメタ規範論的分析と法命令説の現代的再構成
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23730007
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
安藤 馨 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (20431885)
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Keywords | メタ倫理学 / 表出主義 / 論理的決定論 / 神学的決定論 |
Research Abstract |
研究計画全体において、24年度は「命法 imperative」の意味論のサーヴェイが中心となることが予定されていたところ、予定通りこれを実施した。即ち、命法の意味論に関連して非認知主義的、なかんずく、表出主義的なメタ倫理学説のサーヴェイが行われた。この点に関して、主として得られた結果は次のとおりである。1.Frege-Geach問題の本質が、妥当でない規範的推論が「自己不同意 self-disagreement」に陥ることを説明しなければならない、という「不同意問題 disagreement problem」の特殊例であることが確認された。2.Michael Ridgeに見るような「折衷的表出主義 ecumenical expressivism」が自己不同意の説明に成功するにも拘わらず、異なった発話文脈間(つまり異個人間ないし異時点間の)不同意の説明に成功しないことが確認された。3.この問題が本質的に意味論的相対主義の問題と同一のものであることが確認された。4.規範的判断に伴う規則的な動機付け様態の適切な説明には語用論的表出主義を用いざるを得ないであろうことが確認された。 また、23年度の実施状況報告で予定していると述べたとおり、自由意志論と神学的決定論のサーヴェイが実施された。特に、神学的決定論の枢要な構成要素としての論理的決定論について、一般にそう考えられているのとは異なり、それが説得的な回避の意外に困難な問題であることが確認された。具体的には最有力とされるいわゆるオッカム主義的応答が、誤っているか、ないし、余計であるかのどちらかであることを確認した。更にギーチ主義的応答がアリストテレス主義的応答に依存していることを示し、アリストテレス的応答が前提とする時間の存在論と時制の意味論が論理的決定論を巡る議論の主戦場となるべきことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度の実施状況報告書で24年度について予定した研究計画は、ほぼ問題なく終えられたといえる。ただし、命法の意味論については学界に於いて現在まさに議論が進行中であるので、次年度以降も継続的にサーヴェイを実施していく必要がある。自由意志論と神命説の交絡を巡っては、予定通り神学的決定論と論理的決定論の問題状況をサーヴェイすることができた。またこれに際して、一般的に考えられているよりも、決定論の回避が意外に困難であることが確認できたので、この作業は本研究計画全体に於いても、重要な構成要素と位置づけられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画は、当初申請通りに順調に進展していると考えられるので、最終年度である25年度に於いては予定通り、これまでにサーヴェイされた命法の意味論(及びメタ規範理論)から法概念論への応用が検討されることになる。応用の基礎となるべきサーヴェイと検討は24年度の実施を以って一区切りついたことになるため、25年度の中心的作業は基本的にはその法概念論的応用に充てられることになる。具体的には、Hart-Dworkin論争を始めとする法概念論上の古典的諸問題をメタ規範論的に分析し、メタ規範論的視点の欠くべからざる有用性を示しつつ、この観点から理論的に魅力のある法命令説の再定式化が目指されることになる。なお、自由意志と神学的決定論を巡る問題については、更に継続してサーヴェイを続ける必要があるので、適宜応用へと組み込めるように配慮しつつ、並行的に作業を進めて行きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費については、特に書籍資料を含む物品費などについては概ね予定通りの執行が行われたところである。今年度の実施の順調な推移から、来年度に於いても概ね同様の使用が予定されている。他方で、研究計画全体に於いて予定されているとおり、南米諸国の法哲学研究に於いて独自の発達を見ている規範の理論のサーヴェイを達成すべく、南米諸国の法哲学研究者が多く参集する国際社会法哲学会世界大会(ブラジルで開催)に参加するために、特に旅費としての支出を予定している。
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Research Products
(3 results)