2011 Fiscal Year Research-status Report
前近代日本における成文法主義の諸前提─「継受」された律系法典と社会慣習の規範化─
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23730013
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
和仁 かや 神戸学院大学, 法学部, 准教授 (90511808)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 基礎法学 / 法制史 / 日本史 / 琉球史 / 近世 |
Research Abstract |
本研究最初期段階に当たる年度前期には、「琉球科律」(以下「科律」と略)を軸とした律系成文法典の比較研究を深化させた。具体的には、既に申請者が行った「科律」に関する分析を進め、さらには比較対象の材料として、明治前期において編纂された律的刑事法典である「仮刑律」「新律綱領」といったテクストを、その異本をも参照しつつ、また近世幕府法の性格も意識しつつ再検討する作業に着手した。この作業によって、「科律」の非律的性格ともいうべき面が、具体的なレヴェルでより一層明らかになった。 ここで得られた知見は、結果的に、本研究の基礎をなす江戸時代における法構造・法システムの特質を改めて別の角度から浮き彫りにしたものとも言え、この成果をさらに反映させるべく、昨年度(2010年度)の時点で掲載が決定していた書評「学界展望<日本法制史>・「ダニエル・V・ボツマン著/小林朋則訳『血塗られた慈悲、笞打つ帝国。-江戸から明治へ、刑罰はいかに権力を変えたのか?』」」の書き直しを行い、これを公表した。併せて、明石市選挙管理委員会から講演依頼を受けたのを奇貨として、「「法治」とは何か─江戸のお裁きから考える─」というタイトルで、兎角誤解されることの多い江戸時代の法実務について、本研究で得られた成果に基づいた正確な知見を紹介し、一般市民に向けた法に対する関心を喚起した。(「研究成果」欄参照) またこの作業を相対化する試みとして、琉球以外の地域における在地の法慣習と成文法規との関係を分析する作業に着手した。対象としては、所属機関の所在地上から比較的調査が容易である兵庫県内の自治体、具体的には播州地域の龍野、丹波地域の篠山に焦点を当て、自治体史の調査及び精査を行った。作業自体は継続中であるが、得られたデータについてはWeb発信の準備も意識した電子データ化も同時に行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、現在の日本における法制度が直面している大きな変革、とりわけ極端なまでの「法化現象」─これが従来の成文法規範をめぐる理解ないしそれを前提とした「成文法主義」なる原則に対する再考をも促す、法構造の根幹部分に関わる重大な変化であることは言うまでもない─が齎すであろう帰結につき、現行法の土台をなす西洋法継受以前の近世日本で培われた様々なレヴェルにおける成文法規に対する理解を精密かつ具体的に分析することによって、法制史学の立場から、成文法典という形態の法がもつ意味合いを改めて再検討し、複眼的な見透しを提供することを目的とするものである。 現在までのところ、本研究においてきわめて重要な基礎的理論を固める作業は、概ね順調に遂行している。とりわけ資料の収集・分析、また研究者に向けての発信に留まらず、一般市民向け(とりわけ地域住民向け)の講座での研究成果の発信によって大きな反響を得られたことは、在地社会における成文・不文規範に対する意識を主たる解明対象の一とする本研究の出発段階において、重要な収穫であった。本年度以降もこうした機会は積極的に生かし、よりインタラクティヴなかたちで研究の推進を行うと同時に、知見を還元していきたいと考えている。 他方で、昨年度では予定していた幾つかのフィールドワークが、所属機関における業務等の時間の制約により実施できなかったので、本年度はその積極的な遂行にもつとめたい。本年度も時間的な制約は予想されるが、しかしながら、フィールドワークを実施するに当たっての準備作業(大まかな資料状況に関する見通しや基礎的資料の分析など)は順調に進んでいるので、研究期間全体を通じて見れば、大きな遅滞とは言えないであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の二年目に当たる本年度は、引き続き前年度までの調査を継続して行う。「科律」を軸とする律系成文法典の研究については、適宜資料の補充調査を行いつつ、ここまでで得られた知見をまとめた論文の執筆を開始する。また兵庫県内のフィールドワークを本格化させる。その際には聞き取り調査等も通じて、在地の様々なレヴェルにおいて、いわば不文規範として残存する伝統的な法慣習・法意識、とりわけ刑事的サンクションを伴う規範の根拠について、可能な限り幅広く収集することにつとめる。 同時に、前年度必ずしも十分に行うことの出来なかった琉球研究に関するフィールドワークも実施し、さらなる史料収集と同時に研究成果の公表も行いたい。とりわけ本年度は既に、琉球史の総合的な研究を紹介する書評を依頼されているので、法制史と歴史学との一層緊密な架橋を目指した知見の獲得につとめたい。 年度後期も、引き続き律系成文法典理解に関する論文の執筆作業、及び兵庫県内のフィールドワークを継続する。後者については、『兵庫県史』『神戸市史』等を手掛かりとして対象を拡げ、また調査と並行して、成果の発信と同時により広い情報の収集を目的として、その途中経過を公開するWebコンテンツの作成に着手する。 またこうした研究成果は、前年度に続き、様々な媒体で積極的に公開し、その反応をまた研究に反映させるという、インタラクティヴな手法を意識的に活用する方策である。たとえば、本年度も地域住民を対象とした招待講演(神戸学院大学土曜公開講座(2012年5月26日))が予定されているので、前年度に引き続き、本研究で得られた成果を、一般向けにも分かりやすく積極的に発信することにつとめる。さらに、本年7月には法史学史に関する招待講演も予定されているので、本研究に複眼的かつ広がりのある視野を加味しうる準備作業を行いたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の二年目は、引き続き前年度までの調査を行う。「科律」を軸とする律系成文法典の研究については、その少し後に編纂された「新集科律」の再検討と併せてより具体的に進め、さらに先行研究も豊富な熊本藩の「御刑法草書」や和歌山藩の「国律」等の、従来明律・清律をダイレクトに意識して起草されたと位置付けられてきたテクストと、「科律」のテクストとを具体的な条文に基づいて比較対照する作業を適宜資料の補充調査を行う予定であり、まずはこれらの資料調査・購入費用の支出を予定している。またここまでで得られた知見をまとめた論文の執筆を準備・開始したいと考えているので、これにかかるデータ整理・入力などに関する諸費用も見込む。 また兵庫県内のフィールドワークを本格化させることを予定している。地域的な利点を最大限に活かしつつ、同地域在住の所属機関大学の学生にも広く調査協力を依頼し、また聞き取り調査等も通じて、在地の様々なレヴェルにおいて、いわば不文規範として残存する伝統的な法慣習・法意識を、可能な限り幅広く収集することにつとめたい。従って、このフィールドワークに関する費用、また調査の補助や聞き取りに対する謝礼なども見込んでいる。 同時に、琉球研究に関するフィールドワークも実施し、さらなる史料収集と同時に研究成果の公表も行いたいと考えているので、それに関する諸費用(旅費・資料購入費等)も計上している。 年度後期も、これらの作業を継続する予定なので、上記の支出を念頭に置いた予算を計上している。また調査と並行して、成果の発信と同時により広い情報の収集を目的として、その途中経過を公開するWebコンテンツの作成に着手したいと考えており、その準備費用を見込んでいる。
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