2013 Fiscal Year Research-status Report
前近代日本における成文法主義の諸前提─「継受」された律系法典と社会慣習の規範化─
Project/Area Number |
23730013
|
Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
和仁 かや 神戸学院大学, 法学部, 准教授 (90511808)
|
Keywords | 法制史 / 日本史 / 琉球史 / 法継受 / 国学 / 国際情報交換 / ドイツ |
Research Abstract |
本研究の三年目に当たる本年度は、本計画の前半期、とりわけ前年度に得られた重要な視角である、成文規範化をめぐる、いわば為政者側の知的営為に関する知見、及び基礎理論をさらに深化させ、活用することに努めた。昨年度の研究では、江戸時代後期の藩政の担い手、すなわち実務家でもあった伴信友の展開した江戸期考証学の伝統が、西洋法継受に基づく近代法形成の基盤にクルーシャルな影響を及ぼしていたことを明らかにしたが、今年度はその実相をより具体的に詰める作業を行った。 他方で、近代日本に重要なモデルを提供した欧米、とりわけドイツを主とするヨーロッパ大陸の法史学及び法学・歴史学・言語学の学問史に関する研究の積極的な比較参照にも努めた。明治初期の帝国大学法科大学の関係者は同時に国家制定法形成の担い手でもあったわけだが、伝統的な法慣習にも強烈な関心を持ち続けた―それが必ずしも明示されていない場合も含め―彼らの眼に西洋近代学問の方法論が如何様に映ったかは、それ自体改めて個別に立ち入った評価が不可欠であるのみならず、本研究の関心上重要なモデルを提供しうる。昨年度に引き続き宮崎道三郎を手掛かりとした本年度の作業を通じて一層明確化したこの課題については、本年度中のさらなる活字化には至らなかったものの、具体的な蓄積を重ねることができ、公表に向けて大きな進展をみた。なお西洋近代学問の受容の評価に際しては、西洋の専門研究者からの助言を得た上で大きな学問史の流れの中に位置づけたいと考えており、それに向けて、日本側の研究を外国(とりわけドイツ)に発信するための準備作業も進めることができた。 兵庫県内でのフィールドワークに基づく調査と、それらの素材を活用したWebコンテンツの作成作業についても、準備および試作に関して一定の成果は得られたが、なお試行錯誤中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、現在の日本における法制度が直面している大きな変革、とりわけ極端なまでの「法化現象」─これが従来の成文法規範をめぐる理解ないしそれを前提とした「成文法主義」なる原則に対する再考をも促す、法構造の根幹部分に関わる重大な変化であることは言うまでもない─が齎すであろう帰結につき、現行法の土台をなす西洋法継受以前の近世日本で培われた様々なレヴェルにおける成文法規に対する理解を精密かつ具体的に分析することによって、法制史学の立場から、成文法典という形態の法がもつ意味合いを改めて再検討し、複眼的な見透しを提供することを目的とするものである。 現在までのところ、本研究の理論を固める作業は、引き続き順調に遂行している。とりわけ本年の成果としては、江戸時代の法実務とも密接に関わる伝統的学問と、やはりほぼ同時代に西洋近代、就中ドイツにおいて進行していた法典編纂の動きを睨みつつ展開された法学に留まらない諸学問との関係性について、より具体的な分析を行い、様々な視角が得られたことが挙げられよう。さらには西洋側の研究との対話を視野に入れた、代表者のこれまでの業績を含む日本側の研究を外国語で紹介する準備も併せて進められたのは大きな展開である。これは法継受の基盤を出来るだけ多角的に検討するという本研究の趣旨に照らしてきわめて重要な意義を有する。 他方で、予定していた兵庫県内におけるフィールドワークについては、所属機関における業務等の時間の制約もあり、十分には実施できなかった。しかしながら、実施するに当たっての準備(大まかな資料状況に関する見通しや基礎的資料の分析など)はほぼ整っており、かつ先述の、研究の基礎をなす理論に関して得られた進展に鑑みるに、研究期間全体を通じて見れば、大きな遅滞とは言えないであろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度に当たる次年度は、まずは本計画を綜合的にまとめるに先立ち、これまで積み残した作業に傾注する。 具体的には以下の三点が挙げられる。第一点目は、昨年度に引き続き、江戸考証学と西洋近代法学(並びに周辺諸分野)との具体的な関係性を詰め、理論的基礎の構築を目指す作業である。この作業は本計画完了後にも学問的展開を可能としうる重要なものである。この作業にはまた、西洋側の成果との対話に向けた準備、すなわち日本側の研究成果を外国語で発信することにより、自国研究を専門とするドイツ語圏研究者からの助言を求めることも含まれる。二点目には、フィールドワークを実施し、さらにはWebコンテンツ化に向けた試みが挙げられる。先述のように、これまで既に試作などは行っているものの、出来るだけ発進力のある方法を引き続き探り、できれば試作の仮発信なども通じてより充実した成果を目指す。三点目には、今一度本研究の土台をなす江戸の法実務を見直す作業である。これまで得られた様々な視角から法実務に関する諸記録を可能な限り網羅的に見直すことで、とりわけ、一見全く異質な西洋近代学問の方法論から投射された江戸の法実務の様相を改めて確認しておきたい。 以上のような作業を進めた上で、本研究の最終段階たる年度後期には、必要に応じて他の研究者からの助言をも得ながら本研究全期間を通じて得られた様々な知見を整理・総括し、公刊論文としてまとめ上げ、さらには公開可能なコンテンツの完成を目指す。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度、当初予算に残額、すなわち次年度使用額が生じた理由としては、主として二点が挙げられる。第一には、昨年度の時点では本研究における重要な視座である比較研究を進展させるべく、ドイツに渡航した上で文献収集や専門研究者の助言を仰ぐことを検討していたが、それが時間等の制約上できなかったこと、第二には、当初予定していた規模での、兵庫県内におけるフィールドワークが、やはり時間等の制約上から実施できず、その分見込んでいた諸費用の支出がなかったことである。 次年度の使用計画は以下の通りである。まずは本年度に引き続き、本研究の土台となる江戸考証学及び西洋近代学問との関連性を探るために必要な資料・文献収集及び調査費用の計上である。また本年度執行できなかった上述の作業に関する費用を計上し、次年度には実施したいと考えている。 さらには本研究計画完成年度であることに鑑みて、これまで収集した諸資料の整理・分析・統括のために最低限必要な消耗品費、及び論文執筆にかかる諸経費と、効率的なコンテンツ作成のために、作業補助者の助力を仰ぐための費用も見込んでいる。
|