2012 Fiscal Year Research-status Report
イタリアにおける宗派間の平等処遇と共和主義の機能に関する研究
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23730015
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
江原 勝行 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (60318714)
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Keywords | 政教分離 / 信教の自由 / イタリア |
Research Abstract |
2012年度の研究では,イタリアの公共空間における各宗派に対する信教の自由保障のあり方の中でも,特に,公立学校におけるキリスト十字架像の存在と宗教的少数派の信教の自由との対立という具体的問題に焦点を当て,関連文献の収集・検討等に基づき,以下の研究成果が得られた。 まず,当該問題に関連するイタリア国内の裁判所及び欧州人権裁判所の判例を調査した。国内裁判所の判例では,公共空間における十字架像の存在により信教の自由が侵害されたとの宗教的少数派の主張を認めるか否かにつき,破毀院と国務院とで見解の相違が見られるが,十字架像が宗教的次元を超えた文化的価値をもつことを理由に,宗教的少数派のかかる主張を否定する国務院の判例が,政治的・社会的支持を一般に受けていることが検証された。欧州人権裁判所の判例については,国務院判例を否定する判決も下されたが,最終的には,教育環境の整備に関する各国政府の裁量権を根拠に,公立学校における十字架像の存続を容認していることが確認された。 次に,国内裁判所・欧州人権裁判所の判例の動向を踏まえ,イタリア国内の憲法学説が当該問題に対しいかなる評価を行っているのかを跡づけた。国務院判例及び欧州人権裁判所判例を好意的に評価する立場からは,既存の宗教に対し公共空間においてその価値を承認し寛容の態度を示すという観点から宗派間の平等を図る義務として国家の宗教的中立性が構成されていることが明らかにされた。それに対し,公共空間における宗教的標章の存在を容認することは,宗教的多数派との良心的アイデンティティの同一化を宗教的少数派に強制するに至るという批判についても検討が行われた。 なお,研究発表の欄には2012年度の研究成果が入力されていないが,ここに記した研究内容はすでに論文としてまとめられ脱稿済みであり,本報告書作成者が所属する大学の紀要誌上に2013年7月発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
宗派間における信教の自由の平等保障という問題に関し,具体的問題に焦点を当て,イタリア憲法裁判所および欧州人権裁判所の判例を手がかりとした研究を当初の予定通り行うことが一定程度できたが,イタリア憲法裁判所の判例については十分な検討を行っていないものが数例残ったため。また,この研究で焦点を当てた問題に関わるイタリア国内の憲法学説上の成果を,2012年度において網羅的に検討することができたとは言えないため。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度に引き続き,2013年度においても,イタリアにおける信教の自由の平等保護をめぐるイタリアの国内裁判所の判例ならびに憲法理論に関する文献の収集に基づく検討を中心とした研究作業を想定している。この研究作業を,イタリアの関係諸機関(憲法裁判所・国務院等の国家機関や,イタリアの政教分離原則に関する専門家が所属する大学)への訪問調査,および現地での資料収集によって補強する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(1 results)