2013 Fiscal Year Research-status Report
イタリアにおける宗派間の平等処遇と共和主義の機能に関する研究
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23730015
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
江原 勝行 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (60318714)
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Keywords | 国家の非宗教性 / 信教の自由 / イタリア |
Research Abstract |
2013年度においては,イタリアの公共空間における各宗派に対する信教の自由保障のあり方に関し,主として以下の2つの事項との関連で,文献の収集・検討等に基づき研究を行った。 第1の事項は,公共空間における宗教的標章の存在の是非と国家の非宗教性原則のあり方との関係についてである。主として,公立学校におけるキリスト十字架像の設置に対し無神論者の保護者が異議を申し立てたことが行政訴訟に発展した事例について,国内の最高裁判所および欧州人権裁判所の判例,それに対するイタリア国内の学説上の評価をまとめつつ検討を行った。その結果,判例・学説ともに,宗教の領域には還元されないキリスト教の伝統的価値観と宗教的少数派に属する諸個人の信教の自由のいずれを重視すべきなのか,特に,憲法により保障される信教の自由における消極的側面と積極的側面のいずれが国家の非宗教性原則に適合的な人権保障を帰結しうるのかという点をめぐり,見解が大きく対立していることが明らかにされた。 第2の事項は,社会に存在する多様な宗派に対する国家の平等処遇の意義についてである。主として,諸宗派と国家との関係を個別に規律する取極の締結に向けた交渉の開始を無神論者の団体が請求したところ,政府により却下されたことが行政訴訟に発展した事例について,行政系統・司法系統それぞれの最高裁判所の判例政策,およびそれに対する学説上の評価をまとめつつ検討を行った。この問題に関しては,取極の締結過程における政府による裁量権行使の性質,および取極の締結を要求しうる「宗派」の観念が主たる争点となるが,取極の締結を政府に要求する諸団体の組織化における平等を重視するという観点から,政府の裁量権を限定的に解釈し,かつ「宗派」の観念を広く捉えるという判例政策の共通性,およびそれに対する好意的評価という学説における傾向性を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
諸宗派に対する信教の自由の平等保障という問題に関し,イタリア国内において近年生じている重要な具体的問題に焦点を当て,最高裁判所を中心とする国内裁判所の判例政策を手がかりにその問題について検討する研究を一定程度行うことができたが,関連するイタリア国内の憲法学説上の知見を十分にまとめることができたとは言えないため。また,2013年において予定していた海外出張を遂行することができなかったことも,上記自己評価の一因である。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度に引き続き,2014年度においても,イタリアにおける信教の自由の平等保障をめぐる国内裁判所およびヨーロッパレベルの裁判所の判例ならびに憲法理論に関する文献の収集に基づく検討を中心とした研究作業を想定している。この研究作業を,イタリアの関係諸機関(憲法裁判所・国会等の国家機関や,イタリアの政教分離原則に関する専門家が所属する大学)への訪問調査,および現地での資料収集によって補強する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度の交付決定額800,000円のうち,598,624円を2014年度に繰り越すこととした。これは,上記「現在までの達成度」の理由欄に示したとおり,主として,年度当初に予定していた海外出張を遂行することができなかったことによる。 2014年度においては,上記繰越金を主として海外出張の経費に充て,イタリアでの調査・文献収集を実行に移す予定である。本研究に対する助成金交付決定時に交付される予定とされてきた2014年度の交付金500,000円については,2013年度に引き続き,国内での文献収集・研究出張等の経費に充当していくことを予定している。
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Research Products
(2 results)