2012 Fiscal Year Research-status Report
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23730016
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
中島 宏 山形大学, 人文学部, 准教授 (90507617)
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Keywords | 政教分離 / 欧州人権裁判所 / 人権論 |
Research Abstract |
本年度は、前年度の研究成果を論文として公表しつつ、ブルカ禁止問題を規定する重要な要因である欧州人権裁判所の判例研究に特に力を入れた。 当初の研究計画では、現地調査を実施することより、平成23年度の研究の軌道修正を行う予定であった。しかしながら、学内の職務多忙により、現地調査を行うためのまとまった時間を捻出することができなかった。 そこで、ブルカ禁止法制定後に整合性が問題となる欧州人権法との関係を検討・分析することとした。主な素材としたのは、いわゆるラウツィ事件判決(2009年11月3日小法廷判決および2011年3月18日大法廷判決)である。本件においては、イタリアの公立学校の教室に掲げられた十字架の条約適合性が問題となった。イタリアの法令は、教室における十字架設置を公立学校の義務としており、親の宗教教育の自由、ひいては生徒の信教の自由を侵害するとして提訴があったものである。この事件の背景には、イタリアが掲げる共和主義およびその一部としての政教分離原則と、イタリアのキリスト教国としてのアイデンティティの衝突がある。欧州人権裁判所小法廷は厳格な政教分離原則を優先し条約違反と判断、これに対して大法廷判決は権利侵害の立証が不十分として条約違反を認めなかった。 本件によってあぶり出されるのは欧州法におけるフランスの特殊な位置である。厳格な国家の宗教的中立性を尊重した小法廷判決について、フランスの法学研究者の評価は高いものが見受けられる(「ライシテの判例上の『条約化』」)。これに対し、締約国の広い「評価の余地」を認め、十字架設置による具体的な権利侵害の有無は確認されないとした大法廷判決については困惑の色が見える。ブルカ禁止法についても提訴が予想されるため、欧州法が保障する一定の政教分離の射程を測る上で本判決は重要である。 本年度の研究実績の概要は以上のとおりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた現地調査は断念したものの、検討・分析対象を欧州法レベルの問題に変更し、その成果の一部を慶應義塾大学フランス公法研究会における研究報告で提示することが出来た。フランスにおけるブルカ禁止問題は、国内にあっては共和主義の伝統との関係、国外にあっては特に欧州人権裁判所による欧州レベルの人権保障との関係が問題となる。従って、本年度に主たる検討対象とした欧州人権裁判所判例は、今後の研究を進めて行くに当たって検討しなければならない領域だったのであり、適切な選択であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、平成23年度および24年度の研究成果を総合的に検討、整理する。先ず、初年度における立法者意思に関する研究に加えて、フランス国内の法学・政治学・社会学における禁止法に対する反応を分析したい。また、平成24年度に明らかにしたラウツィ事件に関するフランス国内の反応をより詳細に検討したい。フランス国内法における従来の人権保障枠組と、欧州法における新しい判断との整合性を特に重視しながら、ブルカ禁止法の制定がフランス共和主義に与える影響を測ってみたい。研究成果は論文ないし判例評釈として公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に実施することが出来なかった現地調査(資料収集やインタビュー調査等)を可能な限り行いたい。文献読解だけでは読み取ることの難しい立法意図やフランス国内の動向、反応を分析することがその重要な目的となる。また、現地調査で得た示唆を、二次資料の収集に反映させることとしたい。また、これまでの研究においてと同様、適宜研究会等への参加により情報収集や意見交換を行いたい。
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