2011 Fiscal Year Research-status Report
関係性の憲法理論―社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の憲法的価値
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23730032
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Research Institution | Hakuoh University |
Principal Investigator |
岡田 順太 白鴎大学, 法学部, 准教授 (20382690)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 結社の自由 / 社会関係資本 / 格差社会 / 憲法 |
Research Abstract |
本研究の目的は、個々人の「関係性」を、社会関係資本論の考察を通じて憲法学的視点から評価し、これを理論化することにある。近代個人主義が前提としている「個人像」とそれに基づく憲法的思考の限界を探究し、社会関係資本論を参考に、従来の憲法論の修正理論の構築を図る意義がある。特に、東日本大震災を経験した今日、「絆」の重要性が再確認されているのではあるが、これを手放しで受け入れることは、全体主義的価値観に個人が埋没するおそれを含んでいる。しかしながら、憲法理論は、そうした「絆」から個人を救い出すことに優れていても、「絆」を作り出すことには不得手である。そこに空いた隙間は幸福追求権や生存権で埋められるものでもない。格差社会の到来に対処するのに有効な手段の一つが「絆」であるといわれる点も見過ごすことができない。そこで、結社の自由に着目して「関係性」の意義を再評価しつつ、理論的再構築をはかることが、個人を埋没させない「絆」のある市民社会づくりに不可欠であると考える。そうした観点から、本年度においては、「憲法から論じる格差社会」(新井誠ほか編著『地域に学ぶ憲法演習』(日本評論社、2011年) 所収)、「3.11大震災と社会的格差」(法学セミナー682号(2011年) 所収)を公刊したほか、「州立大学における平等加入方針と結社の自由」(2012年度公刊予定)、「アメリカ合衆国における信仰を基礎にした社会統合戦略」(同)の各論文を執筆した。また、アメリカ合衆国における実情の調査・資料収集として、ワシントンDCを訪問し、アメリカ議会図書館ローライブラリー職員から議会動向などの聞き取りをしたほか、連邦議会・最高裁判所・国立公文書館等を訪問した。さらに、デリーで開催されたInternational Institute of Sociologyにおいて学術報告を行う機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度の計画では、文献・資料の収集・分析を作業の中心とし、社会関係資本についての議論の整理と憲法的価値の考察を中心に研究を進め、従来行ってきた結社の自由に関する研究業績と合わせ、理論的構築をはかることとしていた。そのための文献上の調査として、社会関係資本について憲法的視点からその価値を洗い出して結社の自由の理論として組み上げることを目標としていた。まだ新たな理論を構築するところまで至っているものではないが、憲法論において社会関係資本論を積極的に取り入れる方策について、各種文献・資料から検討を重ね、その思考過程で得られた知識・考え方を論文等にまとめたり、研究会で報告する機会を多く得ることができたと考えている。特に、東日本大震災・原子力災害の発生により、本研究の実践的意義を深く考えるようになり、震災関係の文献等の収集・調査を積極的に行うようになったが、この領域についても、法律雑誌等で業績を残すことができたことは、研究の進展に大きな意義があったものと考えている。また、海外に調査・研究報告等に赴き、研究者等との新しいつながりを構築することができ、研究の幅がさらに広がったと思われる。なお、研究成果をWeb上に掲載する計画であったが、技術的補助者の確保が難しく、トップページの立ち上げにとどまり、内容を充実させる段階には至っていない。この点は、次年度にむけて改善すべき点である。とはいえ、上記の通りの一定の成果を残すことができ、次年度の課題も見えつつあるので、概ね順調に進展していると評価しうるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、一連の研究業績とあわせて、『関係性の憲法理論』と題する論文にまとめていくことを計画していたが、本年度はそれに沿って作業を進めていくこととなろう。資料収集については、引き続き、近刊の文献等を参照するが、前年度に構築した理論の補強と「格差問題」を抱える社会において、結社がどのように位置づけられるかについて考察をし、憲法論を展開したいと考えている。なお、東日本大震災や原発事故を念頭において、実践的観点から、関係性の憲法理論を論文として示す予定である。なお、夏季休暇を利用して、社会関係資本研究の主要拠点であるハーバード大学を訪問し、現地調査・資料収集を行いたいと考えている。以上、文献収集・海外調査等を主な研究推進の方策の柱とするのであるが、これらについては年度半ばをメドにして区切りを付け、一連の業績を取りまとめ、年度内に学位請求論文として仕上げることを最優先課題とするつもりである。研究業績のWeb上への掲載は、情報技術を有する補助者の確保に努めつつ、早期の実現を図りたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
設備・備品費として、法学関連図書(主に洋書)・雑誌類に10万円、社会学等の法学以外の領域の図書で15万円、計25万円。国内での研究報告(2月予定)の旅費として10万円、海外調査(9月予定)の旅費として20万円、その他人件費等で5万円の使用を計画している。
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